笑っちゃいけないと思うほど笑いはこみ上げる
はっと目が覚めると午前5時だった。当然外は真っ暗だ。
ぬくぬくと布団に体をうずめながら「やれやれ、寝なおすとするか」と、瞳を閉じてはや1時間。
寝れない! 睡魔が帰ってくる気配なし!
最近明け方に目が覚めて、眠れずにそのまま起きるパターンが増えている。早起きだしいいことじゃんと思ったそこのあなた、そう結論づけるにはまだ早い。
なにしろ昼前から激烈に眠いのだ。その眠気といったらハンパなくて、思わず10時ごろ布団にはいって目が覚めるのは昼過ぎや夕方といった有様だ。
早起きは健康的だが、睡眠時間が乱れているだけなので健康的ではない。そして昼間に寝ているせいでまた朝目が覚めてしまう負のループ……生活習慣って怖い!
そんなわけで夢をうつつに日々を過ごしているのだが、昨日は病院に行く用事があったので必死で眠気をこらえていた。
実はその前の日にも予約をいれていたのだけど、二度寝によって見事すっぽかしてしまい予約し直したのだ。電話をしたら優しい受付のお姉さんに「明日は"必ず"来てくださいね」と念を押される始末。はい、すみません。
なに寝なければどうということはない。同じミスは繰り返さない男だ俺は。
今日はちゃんときやがったな、という目で受付のお姉さんに見られながら手続きをすまし、待合室のソファに沈み込む。ね、眠い……このままここで寝ててもいいかな……。
なんとか睡魔を紛らわそうとあたりと見回すと本棚が。ぐしし、何か面白そうな本がないか物色してやるぜ。
えーっと上から順に、家庭の医学、精神疾患について、骨折の治し方、マンガでわかる心療内科、絵本、哲学書、神学書、宗教……なんか下の方に神様関係の本がたくさんある。
やはり人は弱ったときには神仏に頼りたくなるものなのだろうか。入門用っぽい本はみんなに読まれているのかボロボロになっている。
弱った人間の心の闇を垣間見てしまったような気がして、おとなしくソファに戻る。しばらくぼんやりしていると名前を呼ばれた。看護婦さんに診察室に案内される。
「はい、そちらにおかけください」
診察室の扉を開けると、そこはモジャモジャでした。
医者って清潔感を求められるところあると思うのだが、すごいパーマだ。襟足までパーマのお医者さんがいる。あますところなく気合の入った巻き毛だ。
マジメな顔で「今日はどうされましたか」って聞いてきてるけどダメだ、絶対に笑っちゃダメだ。
「今日はちょっとぐふっ……w」
やっべえええ!!
どうして笑っちゃいけないと思うと笑ってしまうのだろうか。人間の不可思議さに思わず頬の内側をかみしめる。話を聞いてくれようとしている人に対して髪型が面白いからって笑うのは失礼にもほどがあるぞ、私。
いや、もしかしたらシリアスになりがちな患者のためにあえてこの髪型なのかもしれない。場の空気を和らげようという思いやりだ。だとしたらいっそ笑ったほうがいいのか?
眠気と笑いをこらえるあまりあらぬ方向に思考がそれる我が脳みそを落ちつけながら、医者との会話を続ける。
見るな見るなと思うほど、髪の毛に目がいってしまう。そして笑うな笑うなと思うほど笑いがこみ上げてきてどうしようもない。絶対に笑ってはいけない診察室24時だ。
パーマの医者は症状についての説明や今後の方針、薬の解説など事細かにしてくれた。別の病院だとしてもらえなかった丁寧な対応だけに好感が持てる。パーマなこともなんだか接しやすい一因のような気がしてきた。それにやたらとまじめくさったお医者さんよりも、こういうフランク(主に髪型が)な人のほうがやりやすいじゃないか。
髪型のインパクトが強すぎて、待合室に戻ってから「医者がパーマだった」しか思い出せなくなっていたけど、処方箋ももらったし無事に任務終了だ。
と思ったら、薬局が近くにないらしく近所のショッピングモールに入っている薬局にいってほしいと言われた。任務はまだ続くらしい。
ざっくり場所を説明してもらったのだが、まあなんとかなるだろうと聞き流して店に向かう。これが間違いだった。
ぜんぜん見つからない!
幻の薬局なんじゃないかと思うレベルで見つからない。結局ショッピングモールを一周したけど、店のありかはわからずじまいだ。
諦めて店員さんに場所を尋ねるが、それでもたどり着けない。もしかして私の目指す薬局は1と4分の3番線にでもあるのだろうか。
えっちらおっちら歩き回ってようやく見つけた時には、思わず胸をなでおろした。こともなく薬をもらい説明を受ける。
眠気のあまり足元もおぼつかない中、私が向かったのは本屋。バカなんじゃないだろうか。
新刊がないかチェックし、上橋菜穂子さんのエッセイを見つけて購入。チラッと立ち読みしただけでも含蓄のある言葉が書かれているので、これは期待が持てる。
その後浮遊霊のようにふらふらと本屋を周回しようやくレジへ。本を買うときはいつでも小学生のころ初めてお小遣いで本を買った瞬間を思い出す。いくつになっても本を買うワクワクは薄れないのである。
今度こそミッションコンプリート!
戦利品は何冊かの本と、「医者は髪型よりも心意気」という教訓であった。家に帰ってやることをすますと、疲れ切って爆睡。
パーマに失敗してすんごいモジャモジャ頭で出かける夢を見ました。