「生クリーム&わらび餅with白玉ぜんざいボーイズラブ」
私は甘いものが大好きだ。
どれくらい好きかというと、なにか作業をするときには必ず手元に甘い物がある。勉強するとき、文章を書くとき、本を読むとき、常にそばには甘い物だ。
今だって近所のセブンイレブンで買った「わらび餅&白玉ぜんざい」を食べながらこれを書いている。
しかし昨今のコンビニスイーツに、私はひとつ物申したい。
君達、少々暴力的なまでに甘さを追求していないかと。
ためしに私の手元にある「わらび餅&白玉ぜんざい」を分解してみよう。カップは黒で、ドーム型の透明なプラ製フタがついている。
フタの下でもっとも存在感を放っているのは生クリームだ。円グラフでいうと、5割ほどの割合を生クリームが占めている。しかも蓋の内側いっぱいまで迫っている。この時点で「わらび餅&白玉ぜんざい」という名前なのに主役が生クリームに奪われている。
生クリームの次に目につくのがわらび餅だ。こちらは4割ほどで、きな粉がたっぷりとまぶされている。ぷるぷると震えて、実に庇護欲をそそる。わらび餅に庇護欲をそそられる自分の感性に疑問が残るが。
そして最後の1割に白玉だ。これはもう完全に申し訳なさそうに、隙間に詰め込まれている。生クリームが彩度の高い純白をほこっているだけに、ほんのりにごった柔らかな白玉の奥ゆかしさが、かえって引っ込み思案な印象を与える。
底から3センチほどの高さまであんこが敷き詰められ、その上にでっぷりと鎮座する生クリーム。そしてその横で窮屈そうに過ごすわらび餅と白玉。
「生クリーム&わらび餅with白玉 ぜんざい」に改名しろよ! と叫びたくなる一品だ。
ちょっと文章の説明だけだとわかりづらいので、それぞれの具を男に置き換えてみよう。
まず生クリーム、これは間違いなくわんぱく大型犬系男子だ。身長が高くていつでも陽気で朗らか、明るい太陽のような男子である。背が高いだけじゃなくて逞しいので、存在感がすごい。
わらび餅は中型のしば犬系男子だろうか。元気いっぱいな彼は生クリームに振り回されてイライラカリカリ、お目付け役をやらされている。
そして白玉。背が低くておっとりなぽっちゃり男子だ。生クリームになつかれていて、気が付いたら抱きしめられたりのしかかられたりしている。
最後にあんこだが、親戚のおじさんポジションだろうか。仲良し三人組のお目付け役で、苦労人だけどふところが広い優しいおじさんである。
「白玉ー! あそぼあそぼ!」
「ちょ、ちょっと、重いよ生クリームくん……ぼく潰れちゃう」
「だー、もう! ベタベタすんなよ暑苦しいなー、ただでさえ俺の部屋せまいのに! ていうか白玉もちゃんと拒否らないとそいつ調子に乗るだけだぞ!」
「はいはい、家の中であんまり暴れないでねー。おじさん大家さんに怒られちゃうから」
いつでもドタバタと騒がしい三人と、ちょっとくたびれていい味出してるおじさん。うん、とてもいい。
しかし実際のところ、わらび餅は仲良しの生クリームと白玉にちょっぴりやきもち焼いていたりする。
「あいつらは同じ色で、お互いを受け入れ合ってるように見える。となりあってても変な感じじゃない。なのに俺は……」
そしてそんなわらび餅を優しくさとしてくれるのはあんこのおじさんだ。
「わらび餅くんは案外繊細だよねえ。ほらほら、そんなに泣いたらきな粉が落ちちゃうよ。二人は確かに仲良しだけど、あの子たちだけにしとくと甘々のベタベタでげんなりしちゃうでしょ、君みたいに控えめな甘さの男の子がいるくらいがちょうどいいのさ」
そう言いつつ、実はこの中で一番甘いのはあんこのおじさんだ。生クリームでさえかなわない甘さで、三人を優しく包み込んでいる。その甘さは生クリームのように直接的ではないが、優しくまろやかで……。
あれ、こうして考えると案外相性のいい組み合わせなんじゃないだろうか。
それぞれ個性がはっきりしていて、しかもいがみ合わず調和している。「甘み」とひとことで言っても、その中身は千差万別。みんな違って、みんないい。
ここまで書く間にそれぞれ半分ほど味わったのだが、とてもおいしい。断面をみれば、それぞれが自己主張を失わないまましっとりと絡み合っていて、思わず劣情を催しそうだ。
むしろすでに催している。もう私にとってコンビニスイーツは、ボーイズラブ以外の何者にも見えない。
そしてここが重要なのだが、すでに胃が苦しい。
半分食べただけでこの苦しさだ、全部食べたら間違いなく胃もたれする。君達どれだけ甘々なのだね、互いを甘やかすのもたいがいにしないと、被害をこうむるのは私だ。
ほんとうにおいしいのだが、ちょっとこれはキツい。暴力的な甘さが内臓にわだかまっているのを感じる。
ちょっと一休みするために塩気のあるものがほしくなってきた、おっとこんなところにプリッツが……。
はっ、もしかしてこの「わらび餅&白玉ぜんざい」にプリッツをぶっ刺せば完璧な食べ物の完成なのでは!?
しかしそんな平和な日常を壊すような真似、私にはできない。ああ、心なしか私の手元にある「わらび餅&白玉ぜんざい」が私のことを責めているような気がする。
「俺たちだけじゃ不満だってのかよ」
「ご、ごめんなさい、ぼくもっと頑張るから……」
「なくな白玉、よしよし」
「安心しなよ。おじさんがみんなのこと、離れ離れになんてしないからね」
ぐああ、良心がうずく! ダメだ、彼らを完食せずしてプリッツに手を出すなど、許されない。
少し放置したせいか、いつの間にかわらび餅と白玉がぴったりとくっついている。このままではいけない。
かくなる上は、スプーンの上に全部のせだ。全員まとめて、私がおいしく味わってやる。
なに、すでに君達が十分に美味なことはわかっている。そしてここまで来て、この私が君達をバラバラになんてするはずがないだろう。
さぁ、ひとつになる時間だ。
全員まとめて、ドロドロに溶けて気持ちよくなってしまうがいい――!
ごちそうさまでした。