イケメンにはかなわない

 先日、初恋の人と久しぶりに会った。

 

 私の初恋の人は小学一年生の時のクラスメイトで、高校までずっと同じ学校で、だけど同じクラスだったのは二回だけという、近いんだか遠いんだかわからない距離感の幼馴染だ。

 彼との思い出を語ろうと思うと、先ほど地球の向こう側を照らしにいった太陽が帰ってきてしまうくらいの時間はかかるので、今回は割愛する。前書いたような気もするが、どのエントリだかわからなくなってしまったし。

 

 彼とは高校まで同じだったものの大学進学で別れてしまい、それっきりご無沙汰していたのだが、三年ほど前に交流が復活してぼちぼちしゃべるようになった。

 

 彼はいつでも突然だ。関係が復活したきっかけも、夜更けにいきなり電話をかけてきて、「不眠症になった」と言い出し、ひとしきり好きなことをしゃべって「じゃ、また」だ。

 もちろん私は「なにそれ眠れない夜に私のこと思い出して電話かけてきたってこと!? 萌え……」と打ちのめされた。

 これが私のしたことだったら、変な時間に電話をかけてくるなとキレられ、ついでに関係も永遠に切られてしまうことだろう。

 関係復活どころか国交断絶。イケメンは三文どころではなく得だと思い知らされる。

 

 今回は「なんにもしたくなくて地元に戻ってきたけど、3日で飽きた。なにもすることがないから遊ぶぞ」というお誘いだった。確かに実家ってすることないよね。

 せっかくなので高校時代の同級生で暇な人を誘って、鍋パ(鍋パーティーのこと、貧乏人の味方)をすることになった。

 

 そして当日、今かいまかと来訪を待ちわびる私の前に彼は現れた。

 毎回、もう恋心も落ち着いているだろうと高をくくるのだが、会うたびに新鮮なまぶしさに目をやられ「やっぱイケメンだ! 死ぬ!」と精神力をガリガリ削られる。見ただけでダメージをくらうので、彼に会うのは年に1回程度が限界だろう。

 

 おまけに彼は、所作までもイケメンである。

 一度など、「もしも彼女が泣いたらどうするか」というテーマの話(実にノンケっぽい。私はみんなの答えを脳内でホモに変換していた)をしていた時に、「そりゃこうだろ」といきなり私の頬に手を添え、親指で涙をぬぐう仕草をした。

 そんな乙女なら誰だって憧れるであろうシーンが突然訪れて、私の心臓は動揺のあまり不規則な脈動を繰り返し、赤面どころか顔面蒼白になった。しばらくの間は、それを思い出すだけで萌えに事欠かなかったほどだ。

 

 そして今回の一番の萌えは、鍋を食べ終わったあと繰り出したカラオケボックスにて起こった。

 

 彼は私がゲイであることも、ホモbotなるものを運営していることも知っている。知ったうえで友人関係を続けてくれているのでありがたい。

 そして実は、私はボーイズをテーマに扱った小説も書いていたりする(もうすぐ出る予定です)。

 

 ポロッとそれを話すと、「じゃあ読ませてや」と。

 

 念のために言っておくが、彼は現在彼女もおり、BLに興味があるわけではない。

 ただ友だちがホモ小説を書いていて、面白そうだからと興味を持っただけだろう。いやまぁ「そんなん面白いに決まっとるじゃろ!」と面と向かって言われたが。笑う気満々だ。

 ただその笑いは、そういう世界を馬鹿にして笑ってやろうという笑いではなく、受け入れた上で「こんなんもあるのか」と面白おかしく楽しもうとするような、受容あってのもの……だと思う。

 でも笑うということは多少は差別もあるのだろうか。ううん、わからん。言葉にしがたいが、まぁ笑って受け入れてくれているのでよしとする。私もイヤではないし。

 

 始めは自分が書いたもの、それもバリバリR18のBL小説を読ませることに躊躇していた私だが、しまいには諦めて文章を渡した。

 しかし彼がそれを茶化す茶化す。

 興味持って読んでくれることは嬉しいのだが、茶化すのはやめてほしい。ただでさえ知り合いに自分が書いたものを読まれるのは恥ずかしいのに!

 

 しまいには「もうお前嫌いだわ!」と、マイクを放り投げて私はふてくされた。

 すると彼は言った。

 

 

「いやいやお前俺のこと好きだろ」

 

 

 その瞬間の心境をなんと伝えればいいのだろうか。

 餅がのどに詰まることを確信した瞬間の老人って、こんな気持ちなんじゃないだろうか。あっ、ヤバいこれ死ぬ、みたいな。

 

 めちゃくちゃ言葉に詰まったし、死ぬほどドキッとした。

 

 そして同時に心の中で叫びました

 

 ――花より男子(だんご)かよ!!!!!

 

 すみません、ちょっと分からない人いるかもしれないんで補足しておくと、花より男子というマンガに出てくる道明寺司というキャラクターが、「お前、俺に惚れてんだろ」と言うシーンがあるんです。ああ、年がバレる……。

 ドラマではまつじゅんが演じていて、このシーンに狂喜乱舞し、萌え猛り狂い悲鳴を上げた女子がたくさんいたことでしょう。

 

 その発言はさすがにダメだ、それは殺し文句だ。

 

 見事に心臓をひと突きにされ、討ち死にを果たした夜だった。

 

 

 そしてここまで書いていて気づいたのだが、私のホモbotを知られているということは、このブログも見られてしまう可能性があるということではないだろうか。

 しかし、恋心ってなんとなく察知しがちなものだし、悟られているような気もする。まぁ「こいつもしかして俺のこと好き……?」は得てして勘違いであることが多く、「そんなバカな、妄想のしすぎだ」と自分をたしなめることが多々ある私としては、他の人がそういった気持ちをどう取り扱っているのか気になるところではあるが。

 

 しかし明確な文章で見たらキモいかもしれない。「キモ! 死ね!」とか言われたらたぶんハチャメチャに傷つく。先日ひと突きにされた心臓を、今度はバラバラに砕かれることだろう。

 

 片思いを繰り返し、好きな男子に彼女ができたり好きな女の子がいるということを知っては「ぐふっ……やっぱりそうだよね……」と恋にやぶれてきたので、もういい加減失恋にも慣れるころだろうと思わなくもない。

 ところがどっこい、冷たい拒絶の言葉を投げかけられるのは想像しただけで肝が冷える。そりゃもう恐ろしい、今はネットでしょっちゅうそういう言葉を見るが、自分に向けられたものでなくともヒヤッとする。

 言葉を放つときは、いつでも向こうに「一人の人間がいる」ということを考えていたいものである。

 

 しかし一人の人間に対して「お前俺のこと好きだろ」はなかなか言えない。冗談でも私には口にできない一言だ。

 やはりイケメンに許されし言葉なのだろう、道明寺と初恋の君くらいにしか使えない言葉かもしれない。

 

 いつか言ってみたい言葉なのだが、奥手でネンネな私が口にできる日は永遠にこなさそうなので、いつか小説の登場人物にでも言わせたい言葉である。

 

 お前、俺のこと好きだろ。