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私と「SNEAKY RED」

感想

 愛は思わぬところから、殴りつけるように降ってくるものなのかもしれない。残酷に暴力的に降りしきる雨だって、最後には大地を潤し晴天を連れてくるのだ。

 と、いい感じに言ってみたが、この作品はただの暴力からはじまる。しかも容赦ない一方的な暴力だ。さらにさらに、主人公である三崎はそれに興奮を覚えてしまうドMである。

 ※ここからはもちろんネタバレを含むので、未読の方はどうぞお気を付けください!

 

 

スニーキーレッド (Feelコミックス オンブルー)
スニーキーレッド (Feelコミックス オンブルー) たなと

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 設定からぶっとんでいるこの作品、「ええええええなにそれ!?主人公がMで!?ボコられて興奮しちゃうの!?」と私まで興奮の渦に巻き込んだことは言うまでもない。だって主人公が結ばれるべき相手にボコられながら、期待と興奮をはらんだ眼で彼を見るんですよ。なにその歪んだ愛!も、も、も、萌えーーーーーーッ!!!

 つり目の三崎と、金髪にピアスでおっそろしく目つきの悪い釧路も私の好みにクリーンヒット。前々から気になっていたので、ムシャクシャした気分だった時に勢いで購入。見事私のもやもやをふっ飛ばしてくれたのだった。

 

 話は三崎が釧路にからまれ、暴力を振るわれるようになるところからはじまる。普段の生活に入り込んできて、いやおうなく体に刻まれる釧路の暴力。それは体だけでなく三崎の心にまで刻まれ、恐れる一方でそれを待ち焦がれるような複雑な気持ちを作り出していく。

 しかしやがて釧路の三崎に対しての気持ちは、暗く激しい欲望から薄明けの空のような淡い光を帯びたものへと変化する。釧路はそれに気づいて三崎の前から姿を消し、三崎にはつかの間の平和が訪れるのだった。

 

 ここだ!!私の萌えポイントはここだ!!

 釧路はこれまで力によって人とかかわり、暴力によってつながりをつくってきたような男だ。そんな男が初めて他人にいだいた暖かい気持ち。当然思うはずです、「あれだけ好き放題に暴力ふるっといて今更好きだなんて、都合がいいにもほどがある。こんな風な関係になりたかったわけじゃないのに……」と。

 釧路は別れる前に一度だけ、三崎に腕をまわしてキスをする。そしてこれ以上暴力をふるいたくないと思ってしまった自分に気づく。きっとそれは釧路にとっても初めての気持ちだろう。

「ちっとキビシイな。やめやめ!調子狂うっての」

「笑えんよな……バッカみてえ」

「もう来ねえわ」

 一方的にそう別れを告げる胸中はいかほどか。私は思わず両手で顔をおさえ「うう~~~」と 呻きながら床を転げまわった。ついでに脛を打って悶絶した。

 

 釧路は三崎に恋をしたのだ。そしてそれに気づいてしまったからこそ、彼の前から姿を消さねばならなかったのだ。

 私はこういう「思えば思うほどに近づけない」切なさが大好物だ。心臓がうずうずして脳に血が流入し、下腹部にじゅんじゅんと湿った熱がたまってくる。

 ああ、人はどうしてこんなにも矛盾した生き物なのだろう。相手のことを好きになってしまうと、なぜかその気持ちと反対に走ってしまう。結ばれたいからこそ結ばれてはいけないとなぜか思ってしまう。幸せに背を向けて歩む、一見強いようでいてその実悲壮な姿に、私の股はびしゃびしゃだ。

 さっさと部屋を出て行く釧路の背を見送った三崎が、たった一言だけ漏らす「は……?」という言葉が印象的だ。暴力的に自分を抱いていた男が、突然優しいキスをして去っていく。混乱と、「これで終わりかよ」という戸惑いがよく表れている。

 そうして二人は別れてしまうのだった。

  

 

 ところがどっこい、運命(ていうか作者)は当然のように二人を結びつける。うっかり町で再開してしまった二人は、互いの顔を見て焦がれる気持ちに火がついてしまう。

 そして釧路は三崎の家に押しかけて、奇妙な生活がはじまる。以前とは違い日なたのように落ち着いた釧路に対して、暖かい気持ちをおぼえはじめる三崎。しかし台風の目のように思いがけず訪れた平穏な日々は、釧路が学校で起こした暴力事件によって終わってしまう。果たして二人の愛の行方は……!?

 

 ご安心ください、もちろん最後はハッピーです。だけどやっぱりちょっと暴力的。三崎のマゾヒズムは根が深いようである。

 本編は全四話なのだが、番外編に収録されている話がまたいい。三崎がナマでしたがってると思った釧路がぽろっと漏らす、「女と正反対だな」というセリフに三崎が悶々とする話だ。

 釧路は金髪ピアスの不良っぽいイケメンである。女遊びだって激しそうだ。もやもやと考え込む三崎は、女と違う自分に微妙なコンプレックスを抱く。そして行為の最中にいうのだ。

 「悪かった……と思って。女と正反対で……」

 私は思わず胸をおさえてうずくまってしまった。こんな、こんなことって……こんなに萌えることって……。男は女が好きなはずという思いのもとで、女じゃない自分じゃダメなんじゃないかと不安になる気持ちの尊さの裏には、女じゃなくても愛してほしいという切実な気持ちが隠れているのだ。だからこそ自分の性に不安をいだくのだ。

 そんな三崎に対する釧路の対応がまた私の心臓を熱くする。

 「言ってなくねー?悪ィなんてひとことも」

 そう言って彼は三崎を抱き寄せて唇を奪う。 おおお、釧路貴様なんという変わりようだよ。初めはあんなに暴力振るいながら無理やり三崎を抱いてたクセにさあ、なにそのあったかやらしい抱き寄せキスは!私は……私は……(思わず泣く)。

 

 

 そんなこんなで私の脳みそをとろけさせた、この「SNEAKY RED」という作品。ラブに関するあらゆる要素が盛り込まれていて大満足の出来なので、思わず筆をとった所存である。嘘だ、大興奮して「この萌えを誰かに伝えたい~!!」と思って書き始めた。そして文章にすればするほど伝えたい萌えを形にできなくてすったもんだしている。

 

 愛は時に暴力的だ。それはいやおうなく私たちの心をさらい、思ってもみない行動に出させる。自分だけが相手の特別になりたいという欲をいだかせ、自分の知らない相手の姿にいらだちや不安や悲しみを呼び起こさせる。

 そしてそんな愛に振り回されることに悩み、自分の愛は相手にとって疎ましいものではないのか、迷惑ではないのかと不安になる。不安のあまり自分から距離をとってみたり、好きなのに「放っておいてくれよ!」と叫ばせたりする。

 

 愛に含まれる矛盾を十二分に描いたこの物語。秋の夜長に読んで、長い夜をもだもだしながら過ごすのにはうってつけではなかろうか。

 みなさまどうぞご一読あれ!

 

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