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スーツを脱いだ姿が見たい

日常

 私には苦手なものが二つある。

 一つは湿気だ。じめじめとした空気の中にいると、湿気たせんべいのようにふにゃふにゃになってしまう。

 梅雨時の私の歯ごたえの無さたるや、生まれたばかりの小鹿のようだ。

 そしてもう一つは暑さだ。もともと少ない体力が熱に削り取られ、毎年夏には命の危機に瀕している。

 七月八月は、私にとって峠といえるだろう。

 つまり六月から八月の間は、私が一年でもっとも元気がない期間なのである。

 

 

 というわけで、ご無沙汰しておりました。私生きております。

 これまで述べたのは決して、梅雨のじめじめや夏の暑さにやられてブログを書くのをサボっていた言い訳ではありませんことよ。

 邪推はやめてくださいまし。

 ずいぶんとブログを書くのをサボってしまったことだし、久しぶりに近況でも報告しようかと、筆をとった次第であります。

 誰に報告するのかって?そりゃあむくつけき私のファンたちですよ。どこにいるのか知らないけどサ。 

 

 

 近頃の私を紀貫之風に表現するなら、「世のひとのすなるしゆうかつといふものを、われもしてみむとてするなり」といった感じだ。

 とうとう私も就職活動に一歩を踏み出したわけである。

 これは人類にとっては小さな一歩でも、私にとっては大きな一歩だ。これだけ大きな一歩を踏み出すことのできた私を企業は誉めそやし、そっこく採用すべきである。

 え、その程度にそんなに力を使ってしまう新人はいらない?まぁまぁそうおっしゃらずに、試しに雇ってみてくださいようお代官様ぁ……。

 私は仕事には多くを求めない。土日休みで残業がなくて優しくてイケメンな上司とアハーンな展開になれて給料がよければ、それ以上はなにも求めない。

 最悪優しくてイケメンな上司とアハーンな展開になれるというそれだけでもいい。どっかにいい仕事落ちてないかなあ。

 

 そもそもこの就活というやつ、謎の拘束衣を着させられるのが不愉快で仕方ない。

 あまつさえ、そんな拘束衣に身を包んだ男が大量にいる密室にとじこめられて、これで勃起するなというほうがムリな話である。

 ところでこのイベントには説明会というやつがつきものだが、これがめっぽう退屈だ。

 この間とある企業の説明会に参加したときは、あまりにも暇をもてあまして人事の人たちの夜の姿を想像してしまったことだよ。

 その時喋っていた男性は、SMクラブにかよって女王様に激しく責めたてられて悦びそうな顔をしていた。私は自分の想像の細部をつめるべく、その方を見つめながらどのように喘ぐか、どこを責められるのが好きそうかを考えていた。

 

「~で、私たちの仕事は○○なのです。じゃあそこのキミ!○○ってどんな種類があるのか知ってる?」

 

 えっ、そこのキミって私のこと?今夜の指名は私ですか?

 まったく話を聞いていなかった私は、そんなトンチンカンなことを一瞬考えてしまった。こんな大勢の前で指名なんて恥ずかしいです……。

 ところで私は一体なにを質問されたの?誰か教えてくれませんこと?

 周囲を窺うも、助け舟を出してくれそうな人はいなかった。

 

 ちぇっ、なんでい!優しさのない人間は社会に出てから苦労するんだぞ!

 

 仕方が無いので、小首をかしげてニッコリ笑いかけてみた。

 人事は目をそらした。

 今のはきっと照れ隠しね、まったくシャイボーイなんだから。

 私の笑顔に恐れをなして視線を外したのではないと切に願う。

 

 

 そんな調子でとりあえず説明会には顔を出してみたりしているものの、成果はゼロだ。

 こんなに想像力豊かな人間は滅多にいないし、間違いなく会社を楽しくできると思うんだけどなあ。

 

 やはり見た目だけでは想像力が伝わらないのではないだろうか。もっと考えていることを発信していくべきかもしれない。

 しかしもしセクハラで訴えられたら勝ち目がない。八方塞がりだ。

 

 社会に出るというのはかくも難しいことなのか。私は社会という荒波にもまれる以前に、港から出航できるかどうかすら危うい。

 世の中の社会人の方々は、日々堅実に働いて賃金を得ているというだけで尊敬に値する。

 

 ひとまず私は、暴走する想像の手綱をとるところから始めねばならないようだ。