ゴールデン男子校吹奏楽部ウィーク

私は吹奏楽の生演奏を聞くのが好きだ。CDやDVDも好きだが、やはり生が一番である。音が振動となって身体を震わせるのを感じるのは、素晴らしい。

今日は後輩とカラオケに行こうという約束をしていた。彼らとの待ち合わせは一時。ギリギリ(時にはアウト)で待ち合わせ場所につくことが多い私は、後輩にまで時間にルーズなところを見せるわけにはいかないと、普段より早めに家を出た。

待ち合わせ場所に行くには、商店街をつっきると早いので、自転車をえっちらおっちらと漕ぐ。

しかしやたらと人が多い。駅周りの近代化の影響か知らぬが、いつもなら人通りもまばらな商店街が、やけに盛り上がっている。それもそのはず、世の中はゴールデンウィークに突入していたのである。黄金週間とはいかにも大げさな名乗りであるが、そう呼ぶことになっているのだから仕方ない。そもそも日本人があまりにも自主的に休まないから、日本の暦は休日を増やされているのだ。そのせいで多くの人が休むタイミングが重なって、こんな混雑が発生する。諸君、もっと自主的に休み給えよ、身を削ってまで働いてなんとするのだと言いたい。

そのうちに、遠くの方から音楽が聞こえてきた。「むむ、これはもしやブラスバンドか!?」と、自転車の速度を上げる私。はたして道の先では、野外特設ステージでの演奏会が催されていた。

おまけに彼らは、なんと近隣の男子校の吹奏楽部員たちではないか!!

少年たちを観賞しながら、音楽を鑑賞できる機会などめったにない。おまけに男子校の吹奏楽部など、プレミア付きである。無料でこんなに素晴らしい体験ができるとは、なんと素晴らしい商店街だ。これまで「なんだか閑散としてるなぁ」なんて思っていてごめんなさい。

当然のように自転車をほっぽり出して人垣に紛れ込む私。こんな時だけ俊敏である。

ひとしきり少年たちを眺めまわした後、観客の中にも吹奏楽部員たちが混ざっていることに気付く。おそらく演奏しているのは、今回の特設ステージのために編成されたメンバーなのだろう。

音楽を聴きながら、今度は周囲の少年たちの観賞にうつる私。ふむふむ…これはなかなか…若い肌というのは触れれば弾けそうな張りをもっていて、それでいて柔らかであるなぁ。見よ、あの少年の髪の毛など、まるで猫の毛のようにフワフワである。あぁ、あちらの少年は肉付きがよくて、抱き枕にすればさぞかし抱き心地が良さそうだ。男子校らしく、たくましい少年が居れば、襲われたら満足に抵抗もできないのではないだろうかと言うような小柄な少年も居る。うしし、普段はパソコンや本にばかりかまっている私の目玉も、喜んでいるぞよ。

ご満悦で彼らを観賞する私の存在を知ってか知らずか(知られていたら私は窮地に立たされることになる)、彼らはさらなるサービスを私に披露してくれる。

とある大柄な少年が、小柄で犬っぽい顔だちをしている髪の毛が短めの男子の肩を抱いたのだ。私は頬が引きつるのを感じて、慌ててポーカフェイスを装う。おそらくおにぎりにかじりついたら、中身がワサビだった人間のような表情をしていたことだろう。

思わず目を離せなくなった私の目の前で、大柄な少年は自分の腕の中の彼に何事かを囁く。もちろん演奏中のことであるので、耳元に口を寄せてである。

なになに!?何を言ったのよーっ!自分の顔が、今度はワサビを鼻の粘膜に直接塗りつけられたような表情になっているのを感じるが、そんな細かいことに構っている場合ではない。

囁かれた少年は思わずといった風情で、自分より背の高い彼を押しやる。そこで二人はいったん離れたが、大柄な少年はすぐに彼より小さなその肩へと、再び手をまわす。吹奏楽の音楽など、もはや耳に入らぬご様子。いや、あの場にいる誰よりも演奏を聞いていなかったのは私だが。

結局二人は、演奏が終わるまでくっついたままであった。どういうことなのだ。男子校だけあって、男同士の部内恋愛も「まぁそういうこともあるよな」と、容認されているのだろうか。

それにしても一体何を囁いたのだ。様々な想像が頭をよぎる。

「この演奏会が終わった後、俺んとこくるよな?」「他の奴の演奏に見蕩れるなよ」「口あいてるぞ、かわいいな」「触るの我慢できなくなっちゃった」うーむむ、どれも魅力的である。

世の中の集客に悩む商店街のお歴々は、男子校の吹奏楽部を招待すればいいのだ。演奏に興味がある人間と、少年に興味がある人間の両方が釣れて、まさしく一石二鳥である。

いやいや、いっそのこと「ゴールデンウィーク」なんて呼称は、「ゴールデン男子校吹奏楽部ウィーク」にしてしまえばいい。日本全国津々浦々で、男子校の吹奏楽部員たちが演奏会をする期間にするのだ。

そうすれば、一部のマニアックな人たち(私のことだ)は、彼らを追いかけて全国を旅行するに違いない。演奏会を人に来てほしい場所で行えば、活性化もバッチリである。わーお、私天才じゃない?

午前中に演奏会をすれば、きっとそのマニアックな人たち(私である)はお昼をそこで食べて、お金を落としていってくれることであろう。熱き吹奏楽少年たちとの懇親会を開いてくれれば、たとえ有料でも奇特な人間(これも私だ)が参加することであろう。

もしこの案が採用されれば、全国の男子校の吹奏楽部の少年たちは練習により熱心になるであろう。男子校では吹奏楽部に所属することが、ステータスになるやもしれぬ。地域活性化だけでなく、少年たちの向上心にまで火を点け、吹奏楽の勃興をも狙える策である。特許料をとりたいところだが、そこは少年たちとの懇親会をタダにすることと、彼らの写真を送ってもらうことで我慢しよう。

どこかのお偉いさんから連絡がくるのを、座して待つことにしよう。

おや、私はなにをするんだったかな?そうそう、どこかに向かっていたところだったような…。あぁ、後輩たちとの待ち合わせだ!

遅刻したことは言うまでもない。