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男子と触れ合う東京ツアー ―前編―

日常

 天気は上々、荷造りもバッチリ。

 週末から東京へ三泊四日で旅行してきた。気になるイベントがあってどうしようか迷っていたのだが、我が人生の師と仰ぐ人に「お前もこいよ」と呼ばれてはせ参じたのだ。

 ついでに友だちのところに泊まりにいく予定もたてて、ホテルは二泊だけ。荷物もリュックひとつにまとめて、なんだか私、旅上級者って感じ?とウキウキである。

 しかし家を出る直前に「あっ、パソコンがないと頼まれていた仕事ができない」ということに気づき、あわててとんぼ返りしてカバンにノートパソコンを詰め込む。ううむ、まだまだ若輩者であります。

 

 混む時期でもないので自由席の切符を買い、新幹線の中で爆睡。途中自分のいびきで一度目が覚めたが、そんなことは気にせず東京に着くまで二度寝する。

 そしてたどり着いた東京駅。何回来てもデカくてビビる。ひええ、都会は人がいっぱいじゃ。

 ついでに路線の多さにもビビる。今はスマホで何番線で乗り換えればいいか教えてくれるからいいが、もしもこれがなかったらと思うとぞっとする。

 私は地元(路線が3本くらいしかない)ですら電車に乗り間違えるような人間なので、文明の進歩にほかの人より恩恵を受けている。一度など「なかなか目的の駅につかないなあ」と思ったら上りと下りを間違えていて、見も知りもしない田舎の駅においてきぼりにされたことがある。

 無人駅で誰もいないので、とりあえず反対側の電車に乗り込んで途中の駅で降りて路線を聞き、なんとか帰り着いたのだ。あの時はもう家に帰れないのかと本気で恐れおののいた。

 

 なにはともあれ無事に東京につき、文明の利器の力でホテルの最寄り駅までついた。

 うーん、ホテルの方向は……あっちだ!

 そして当然のごとく道に迷う。どうしてこう見切り発車をしてしまうのだろうか。私が電車だったらダイヤが乱れまくって大変なことになっていたことだろう。

 自力でホテルにたどり着けなさそうなことを察した私は、早々にコンビニで道を尋ねる。

 

「あのー…このあたりに○○ホテルはありますでしょうか」

「○○ホテルぅ? そりゃ反対側だよ。一回駅のほうまで出て、信号わたってまっすぐ行ったらあるよ」

「はい、はい…ありがとうございます」

 

 自信をもって反対側にズンズン歩いていたらしい。アホなことこの上ない。

 コンビニの親切なおじさんのおかげでなんとかホテルにたどり着き、ほっと一息ついてベッドに身を投げ出す。あー、ホテルのベッドって大きいし清潔だし最高だ。ちょっと乾いているのが難点だけど。

 しばらくゴロゴロしてから、シャワーを浴びて布団に潜り込む。明日はイベントだぜ!

 

 

 

 はっと目が覚めると午前五時。

 うーん、むにゃむにゃ……あと30分……。

 朝早く目覚めすぎて二度寝する。なんだか私昨日から寝てばっかりだな。寝る子は育つというし、伸長ものびないかしら。

 

 はっと目が覚めるとイベント開始時間が迫っていた。

 ち、遅刻遅刻ー!!

 

 飛び起きて寝癖もなおさないままホテルの部屋を飛び出す。私としたことが、いったいどれだけ眠れば気が済むんだ。

 気分的には韋駄天のごとく駆け抜け、実際には運動不足の体をドタドタと運び、なんとか会場につく。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。やれやれ危ないところだったぜ。

 

 あまり人のいない場所に陣取り、ふぅと一息。そのまま腰を落ち着けてイベントの様子を眺める。

 いいね、このオタクが集まってがやがやしてる雰囲気。光る棒とかリュックサックとかいかにもって感じだ。

 

 後方に陣取って眺めていると、いきなり隣に座っていたおじさんに声をかけられた。

 

「あのー、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう」

「ワタシ、○○テレビの~~と言う者なんですが」

 

 ひえーっ!て、テレビ!

 どうしよう私髪の毛もボサボサだし、ちっともオシャレしてない!

 

「あ、今日は撮影とかはないんですけど」

 ないのかよ。

「ちょっとオジサンのワタシにはこのイベント難しくてですね……それで、よければ説明とかしていただけたらなーと」

「それは大変ですねえ。私でよければなんでもお答えしますよ」

 

 そう言って秘蔵の営業スマイルを張り付けて応対する私。あら、これ結構好青年なんじゃない? 赤丸急上昇なんじゃない?

 もしかしたらこれをきっかけにテレビ出演のオファーがきて、超人気アイドルへの階段を駆け上ることになるかもしれない。そうしたらイケメン俳優との熱愛報道やらコメディ番組でのポロリやらでお茶の間を騒がせたあと、自叙伝でも出版して老後は印税でハワイに住もう。日がな一日フラダンスを踊って過ごすのだ。

 でもフラダンスってあんがいハードらしいし大丈夫かな…ヨガとかピラティスにしたほうがいいかしら。

 

 私の脳内で進行する荒唐無稽なサクセスストーリーなど露知らず、おじさまは熱心にいろいろたずねてくる。私はなるべく初めての人にもわかりやすいように逐一説明しながら、「仕事とはいえさっぱり知らないイベントにきて取材しないといけないとは大変だなあ」と思った。

 それでもおじさんはこうして謎の一般人(私のことだ)に声をかけ、理解するために努力しているのだから、頭がさがろうというものだ。人間たるもの歩み寄りが大切なのだなあ。

 

 無事にイベントも終わり、我が人生の師との再会も果たしてご満悦の私。

 ルンルン気分で場内を歩いていると、イベントに出演していた私が超絶ファンのアイドルが目の前に!

 

 ぎゃーっ! ど、どうしよう、こんなかっこうで私彼の前に……いやでもこんな千載一遇のチャンスはないし……!

 

「すすすいません!」

「ん?」

「あああの俺アナタのめっちゃファンです! それで写真とってもらえませんか!」

「えっ、俺と写真?w いいよ~」

 

 あからさまに挙動不審かつ緊張で汗ばんでいる私に対して、にこやかに対応してくださる。天の助けとはこのことか。

 スマホを道行く人に私、彼の隣に立つ私。

 ぎゃーっ、やばい! 肘が触れている! 服があたってる!

 

 これまでずっと画面の向こうで眺めていただけの存在が肉と質感をともなって自分の隣にいることに動揺を隠せない私。写真にうつっている表情も見事にやにさがっている。

 ああ、もう死んでもいい……。

 

 毛穴からエクトプラズムが抜け出ていくのを感じながら頭をさげまくる。この一瞬で東京にきたかいがあったというもの。

 

 そんなこんなでイベントを乗り越え、ホテルに戻って就寝。

 もちろん寝る前に写真を月明りにかざし、五体投地で神への感謝をささげました。

 

 次回は「ドキッ!? 一人暮らしの東京男子の部屋にお泊り! ~あなたの腕の重みが愛しくて春~」です、どうぞよろしく。