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私と「海辺のエトランゼ」

感想

 私は今日、ついにボーイズがラブする漫画に手をつけてしまった。

 いや、以前からちらちらと見たりはしていたのだ、興味が津々だったのだ。しかし明確にボーイズがラブしている本を買って読んだのは、これが初めてである。

 一言で言えば、新世界だった。ホモのことを考えるだけで世界が美しく見える私ではあるが、明日からはますます美しく見えること間違いなしだろう。

 そして、私が禁断の扉を開くきっかけとなったのが、この『海辺のエトランゼ』だ。

 

海辺のエトランゼ (Feelコミックス オンブルー)

 ぱっと見ただけで、 潮の香りがまざった夏の風が流れ込んでくるのを感じられるような表紙だ。思わず買ってしまったのも、この爽やかな外観に惹かれたからに違いない。

 そして中身がまた素晴らしい。沖縄の孤島、孤独な雰囲気をまとう少年、悲しい過去……私の萌えポイントを凝縮したような作品で、ベッドの上で「ボーイズ万歳!!」と叫びながらのたうちまわった。萌えは全身で表現すべし。

 あらゆるところに萌えがちりばめられていて大変にグッドだったが、この作品はそれだけではない。互いに恋しあう二人の心情と、ゲイであることへの微妙な葛藤が淡くうつし出されている。私がそれをとらえきれているか怪しいが、このすばらしきときめきを伝えるべく筆をとろう。

 

 表紙の茶色い髪のほう、橋本駿は、幼なじみの桜子と結婚の約束をしていたのだが、結婚式当日にゲイだと言って逃げ出した過去がある。彼の回想シーンには、社会とかみ合わない自分に対する複雑な気持ちが表現されている。

 彼はあるとき同級生の男の子を好きになってしまう。もちろん片思いだ。その男の子の前ではドキドキや恥ずかしさでいつも赤くなってしまっていたのだが、あるとき体育のダンスで赤くなってしまい、「あのさ、お前ってホモなの?」「お前のこと嫌いじゃないけどさ、オレそーいうの無理だからよ」「ごめんな」と言い放たれてしまう。

 彼はすぐ次のページで言う。「人に受け入れられないって、辛いな」「俺絶対おかしい、ちゃんと女子……好きになりたい」「気持ち悪い、普通がいい、普通になりたい」

 きっと全世界のゲイが青春の一ページでぶつかるであろう苦しみを率直に表現したいいシーンだ。駿の背中や横顔からは自分への失望感、生き方への葛藤が漂ってくる。エトランゼ名場面劇場をひらくならここは外せない。

 

 黒い髪のほう、知花実央は、母子家庭で育つが高校時代に母をなくし深い孤独を抱える。面倒をみてくれている家にも帰りたくなくて、毎日海辺に座っていたところに駿が声をかけることになる。この「悲しみを抱えていたが人の優しさに触れて立ち直り、そればかりか自分に優しくしてくれた彼のことが特別に思えてきてしまう」展開、使い古されてもなお輝く素晴らしいシチュエーションだ。点数で表すなら満点だ。

 実央はけっきょく施設に引き取られることになるのだが、三年後に駿のもとへ帰ってくる。彼は昔の憂鬱そうな面影を捨て、再開した駿に言うのだ。

 「大人になったから戻ってきたよ」「俺、駿のこと好きだよ」

 エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!

 思わず叫んだ。私ののたうちまわりっぷりも極まり、もはやえび反っている。人に見られたらひきつけを起こしたのかと思われて救急車を呼ばれそうだ。

 

 かくしてこの二人は付き合うことになるわけだが、近づけないでも離れられない曖昧な距離感がまたいい。

 付き合い始めて同棲する二人だが、寝床は別々だ。実央は「いっしょに寝よう」というのだが、駿はそれを嫌がる。微妙にすれ違っていく二人にハラハラしながら読みすすめる。もう、駿!なにやってるの!実央はあなたのことが好きなんだから、おびえずに受け入れてあげればいいのよ!

 私の的確かつ適切なアドバイスを駿は無視し、とうとう決定的な発言をしてしまう。実央は当然怒りだし、二人はバラバラで過ごす(二ページくらい)。

 まぁその後ね、ふにゃふにゃあってね、二人はとうとういっしょに寝ることになるわけです。え、行為?残念ながらありません。焦らしてくれますねえまったく。もちろんのちのちムフフなことになるので、そこにもぜひご期待いただきたい。

 

 そして元婚約者の桜子だ。彼女はロングヘアの大和撫子的な外見をしているが、芯が強く激しい女の子だった。ぐだぐだと怖気づく駿の尻を蹴飛ばし、実央に怒り、二人の進展に大きく寄与してくれる。

 彼女は駿のことをちゃんと好きだったのだ。それでも諦めきれない気持ちを殺し、背筋を伸ばして立っている。ボーイズがラブする漫画では残念ながら報われなさそうだが、彼女には彼女でまたいい男があらわれるよう願っている。

 

 そして最後に、個人的にMVPを贈りたい人物がいる。

 海辺のエトランゼは一巻完結の予定だったのが、シリーズ化して続編の「春風のエトランゼ」が出ている。

 

春風のエトランゼ 1 (onBLUEコミックス)

 

 この春風のエトランゼに出てくる名も無き眼鏡天パの男の人だ。彼は駿をナンパしてホテルに連れ込むのだが、いざするとなった時に泣き出してしまった駿を一晩中慰めることになる。駿は自分がゲイであることに悩み苦しみ、彼は「もっと気楽に生きないとダメよ~」と頭を抱きしめる。

  彼は次の日の朝、駿に札束を渡す。「お馬がねっ、当たったの~♡」「ウフフ、びっくりした?あぶく銭だから大丈夫よ~」「君もそれでかわいい恋人、ちゃんと見つけるのよ~」

 若く思い悩む少年の前に颯爽とあらわれて違う生き方を示してみせる彼は、なかなかかっこいいと思うのだ。ちょっとオネエっぽいけど、そこがまたいい。

 

 最後になったが、私のおもうこの本の一番の見所は、やはり駿と実央のつかずはなれずな関係性だろう。互いのことが好きだ、だけど踏み込みきれない。微妙にすれ違いながらも想いあっている二人の姿に、頭を抱えてのたうちまわること間違いなしだ。

 想いあう二人の姿はいつだって尊い。二人のラブの行方を、雄たけびを上げながら見守ろうと想う。