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盆と正月はゲイの鬼門

 私がいま一人暮らしをしている家は、実家から3、4駅ほど離れたところにある。電車で一本で帰れるので、「帰ってこい」という指令が母からくだるのも日常茶飯事だ。普段は面倒くさいのでアレやコレやと理由をつけて断っているのだが、さすがにお盆くらいは顔を出しておかねばなるまい。そうして今日私は、実家へとおもむいた。

 

 えっちらおっちら電車に乗ってたどり着いた私を出迎えてくれるのは、小学校のころからいっしょに暮らしているワン太(仮名)だ。ワン太ときたら、もう16年もいっしょに過ごしているというのに未だに私の顔を覚えないらしく「お客さんお客さんお客さん!!」と全力で出迎えてくれる。アホなのだ。しばらくそうして可愛がらせてもらっていると、途中で私が誰だったのか思い出すようで、突然裏切られたような表情になってテンションがさがる。ふはは、いまさら遅い!貴様のもふもふは私のものなんだよ!

 ワン太の熱烈な吠え声に召喚されるのが、我が家の君主をつとめる母君である。母は開口一番、「あら、帰ってきたの」と眉をあげてみせる。あ、あ、あんたが呼んだんだろうがー!!という私の心の声は無視され、彼女は今後の予定をお告げになる。「ずっと俺のターン!」って感じだ。

 君主は決してケチではないので、実家に行くたびになにかしらの土産を持たせてくれる。このあたりは田舎のおばあちゃんと変わらない。今回は服と食べ物だった。

 「あんたに似合いそうな服買っといたから着てみて」

 そう言われおとなしく着替える。今回は秋冬物を選んでくれたらしい。断捨離キャンペーンでごっそり服を捨ててしまったので、これはありがたい。素直にそう言うと「ふ、ふん!じゃあちょうどよかったんじゃない!」とツンデレ(?)までかましてくれる。母親のツンデレほど対応に困るものもないので、ここはスルースキルを発動だ。

 さて、ここまでの間の背景に、黙って働く父を追加しておいてほしい。私を駅に迎えに行き、家に帰れば洗い物と洗濯。リビングのテレビが壊れたと言われれば自分の部屋のテレビと取りかえ、ゴミ出しといてと言われればゴミ処理センターまでゴミを持っていく。夫の鑑ではないだろうか。

 

 まあざっくりこんな感じの家庭なのだが、私が成人したころから話題がひとつ増えた。

 そう、「結婚・交際」の話である。

 

 「ところであんた、彼女とかはいないの」

 「あーうん、まあ、いないかな」

 「好きな子は?」

 「(頭に思い浮かんだ男キャラを打ち消しつつ)それがいないんだよね~」

 「そうなの。あんたもいい年なんだし、相手見つけとかないと後々困ることになるよ」

 「あはははは……」

 

 余計なお世話じゃ!私だってなあ、できるもんなら恋人の一人や二人や三人や四人つくっとるんじゃい!

 心の中でそう毒づく私にも気づかず、ダメ押しといわんばかりに追撃が行われる。

 

 「あんた結婚する気あるの?」

 

 グアアアーッ!!

 逃げている最中に後ろ足を撃ちぬかれた手負いの獣のような悲鳴をあげる。追い詰められて逃げ場なし、万事休すというやつだ。

 まさか「ゲイなので日本じゃ結婚はできないかな、HAHAHA」なんて答えるわけにもいかぬ。かといって「結婚する気はあるよ~」と答えるのは嘘である。しょうがないので「いい人がいたら結婚すると思うけどね」と言ってみる。なにいい人って、偽装結婚してくれる相手?と自分に突っ込みをいれずにはいられない。

 今回は追求の手を緩めてもらえたが、これから「孫の顔が見たい」とか言われるんだろうか。試験管ベイビーでも許してもらえるかしら。

 これが親戚の集まる場だったらと思うと冷や汗ものである。なんでも私の三つ下の従兄弟は、高校生のころに「俺は今の彼女と結婚するんだよ」と宣言して「それは早すぎる」と待ったをかけられているらしい。彼が結婚してしまったらいよいよ私の肩身が狭くなる。結婚式でいたたまれない気持ちを味わうこと間違いなしだ。披露宴では「あっちのお兄さん、彼より三つも上なのに恋人の噂も聞かないんですってよ」「まぁ~、それは先を越されてさぞかし焦っていることでしょうねえ」なんて噂されちゃうんだ、あああ引き出物だけもらってさっさと帰りたい。

 

 くそう、せめて恋人だけでもつくって、「付き合ってる人はいるけど、先のことはまだこれからだから」とかわせるようになりたい。恋人との時間を大事にしている自分を演じたい。それで家に帰ってから「今日親にこんなこと言われちゃってさー」と話したら、「そっか、でも俺たちもう結婚してるようなもんだもんな」って言われたい。それからはことあるごとに「今日の晩ごはんはなんですか、旦那さん」とか「背中ながすよ、おまえ」とか言われたい。

 はっ、また妄想の世界に逃げ込んでしまった!恋人生活のイメトレはばっちりだし、あとはもう実戦あるのみなのだ。実戦が、実戦がしたい……実戦で実践したい……!

 このままでは、いま帰ってきているであろうご先祖様に顔向けできない。今夜あたり「産めよ増やせよ」と枕元に立たれたらどうしよう。

 

 ご先祖様!今生はもう無理でごわす!