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「あいつ私のことが好きだったんじゃないか」症候群

 「はやく来てほしいから、きゅうりの馬で走ってこれるように」

 「帰りはたくさんおみやげをもってゆっくり無事で帰れるように、茄子でつくった牛に乗って」

 

 私はお盆が好きだ。別にお盆だからといって、きゅうりの馬や茄子の牛をつくるわけではない。しかし目に見えない魂のために準備をするのは、どことなく物悲しい思いやりにあふれていて風流だと思う。

 お盆になると里帰りする風習も、帰ってくるご先祖様の魂を出迎えるために生まれたのだ。私は日本のそういうところが、すごくいいと思う。

 

 お盆といえば、忘れられない思い出がある。

 私は毎年夏になると、祖父母の家に遊びに行っていた。車で六時間かかる、コンビニなんかないような田舎だ。子ども時代の私にとって、祖父母の住む自然豊かな町はなにもかもが珍しかった。ちょっと目を離すと川やら田んぼやらに突撃していたので、家族はさぞかしひやひやしたことだろう。

 小学生のある夏、私はいつものように近所を探検していた。近くの小学校の校門があいていたので、ためしに忍び込んでみると、校庭で自分と同い年くらいの子達が遊んでいた。いつも一人で遊んでいたので、その時初めて「おじいちゃんちの近くにも友だちがほしい」と思ったのを覚えている。

 どうやって仲間になったのだか忘れたが、気がついたらその子達にまざって遊ぶようになっていた。大きい子も小さい子もいたけど、みんな仲がよくて驚いた。私の通っていた小学校では人が集まるとすぐイジメが起きていたし、上と下の学年がいりまじって遊ぶこともあまりなかったのだ。

 新しい遊び場も教えてもらった。中でも私のお気に入りは、大きな石がごろごろ転がっている河だった。石のかげにはいろんな生き物がいて、年上の男の子は罠をしかけて魚をとったりしていた。一人じゃいかなかったようなところまで探検したのも覚えている。友だちにつれられて未知の場所を歩くわくわくは、まさに冒険だった。

 

 彼らはみんな気前がよくて、おおらかだった。駄菓子屋でアイスをおごってもらったり、家で飲み物を出してもらったり。みんな当然のように受け取っていたし、同じように誰かにあげたりしていた。

 そういうことに慣れていなかった私が遠慮をすると、「気にすんなって!今度はお前がオレにおごってくれたらいいから!」なんてませたことを言う。今ならちょっと背伸びしてたんだとわかるけど、当時の私にはそれがたまらなくかっこよく見えて、彼らのことが大好きだった。尊敬だったのか恋だったのかは微妙なラインだ。年がら年中外で遊んでいるせいか日に焼けてたくましかったし、間違いなくストライクゾーンだったのだ。

 

 冬休みに祖父母の家にいったときには、おおがらな男の子に「ついてこいよ」と行き先もわからないままつれられていったこともある。彼は遠くの商店まで私をつれてきて、肉まんを買ってくれた。彼はことあるごとに電話をかけてくるクセに、「年に二回くらいしか会えねーのつまんねーな」と言っていた。電話で私が地元に帰っても距離まで離れてしまわないようにしてくれていたのかもしれないが、なんにも考えてない可能性のほうが大きい。なんにも考えずに人を思いやれる男だったのだ。

 最近聞いた話だと結婚を前提にお付き合いしている人がいるらしくて、非常に残念だ。こんないい男滅多にいないので、彼にはぜひとも幸せになってほしい。

 

 ここまで思い出して、「なんだこのいかにもマンガにありそうな展開は」と思わず突っ込みをいれてしまった。人の少ない田舎、気のいい仲間たち、笑顔の眩しい青少年……。

 なぜ若さゆえの過ちが起きていないのか不思議である。田舎の純朴な少年たちを穢れた目で見てしまう私が悪いの?

 胸キュンなのが、肉まんをおごってくれた男の子がある寒い夜に電話してきたときのことだ。

 

「よお!こっちめっちゃ雪ふってて雪合戦してる!なにしてんの?」

「こっちは雪ふってないし、こたつでぬくぬくしてる」

「えーつまんな!ちょっと外出てみ?」

「やだよ寒いもん」

「いいからいいから」

「……出たけど」

「月見える?」

「見えるよ」

「じゃあ俺たちいまおんなじ月見てるんだな、離れてても同じもの見てるって不思議だな」

 

 ドギャーン!

 私はこの瞬間感じた恋のときめきを覚えているぞ。ていうか14歳の同い年の男にこんな少女マンガみたいなセリフ吐く男いないだろ!もしかして彼は私のことが好きだったのでは……?

  お盆のしんみりした雰囲気を感じて、風流に昔のことを振り返っていたのに、着地地点はコレだ。私という人間はほんとうにどうしようもない。でもこんなこと言われたら絶対印象に残るし、つられて思い出しちゃうよ。ぐおお、なんだかぼんやりとした甘い恋の香りが漂ってきたぞ。久しぶりに彼に会いたいものだ。

 お盆にはご先祖様の魂といっしょに、昔の思い出も帰ってくるものなのかもしれない。田舎の友人たちに囲まれて笑う昔の私は幸せそうなので、今の私までつられて笑ってしまうことだよ。

 

 にやけじゃないぞ、爽やかな笑顔だ。

 ほら、にっこり。