夏、海、男
ついに夏がやってきた。
今年の太陽はやたらと強くて、私の皮膚組織を殺そうとやっきになっているようだ。引きこもりの白い肌は、太陽の光にあぶられて悲鳴をあげている。
あまりにも暑いので、いっそのこと暑さ(熱さ?)を追求してやろうと、汗がほとばしりそうなことを考えてみた。マラソン大会、運動会、夏場の工事、スーツを着た男たち、ライブイベント……。
そういえば夏といえば夏フェスやら野外ライブやら、やたらとライブ的なイベントが多いイメージがあるのだが、実際のところどうなのだろう。冬は手がかじかんでうまく演奏できなさそうだし、やっぱり熱気を最大限に感じられる夏が多いのかしら。
男性グループバンドの人たちが、舞台の上で汗をしたたらせながら演奏する様は美しいにつきる。タンクトップやら上裸やらの格好で激しい音楽を奏でていると、女性ファンが感極まって「抱いてー!!」とか叫んでしまうのもわかる。
ていうか男性ファンも名前を叫んだりしてるときに「(抱いてくれ)○○ー!!」と思っているのではないのだろうか。夏とライブの魔法にかけられて、一人くらい本音を叫んでくれないかなあ。
おっと重大なイベントを忘れていた。夏といえば海だ、これは外せない。そういえばこの間コンビニで、いかにもこれから海に行きそうな男子の集団を見た。五人組だったのだが、三人がわいわい飲み物を選んでいる間に二人はさっさと飲み物を選んで会計をして、入り口のほうで楽しそうに話していた。あの二人、もしかしていい感じだったんじゃないの?
うーん、見える。見えるぞ……。
足先が熱くなって目を覚ました。
パラソルの影から、サンダルの日焼け跡がついた足がはみ出している。寝ている間に太陽が動いて、日に晒されていたらしい。
ざぁ、ざぁ、とよせてはかえす波の音を聞いていると、「起きたか」と横から笑いを含んだ声が聞こえてきた。首をかたむけてそちらを見ようとすると、髪の毛をくしゃりと撫でられる。
「なにイチャついてんだよ!」
遠くから聞こえてくる友人の声に「ちげーよ!」と叫び返す癖に、頭に置かれた手はなかなか離れない。気恥ずかしくなって避けようとすると、そのままするりと頬まで手のひらがおりてきた。頬をやさしくはさみながら、顔が近づいてくる。
「お前の寝顔って、案外かわいいのな」
低めた声といっしょに、サンオイルと海の匂いが鼻をくすぐる。パラソルが太陽の光をさえぎってくれているはずなのに、そう言ったあとの笑顔が直視できなくて、細めてしまった目をごまかす様に笑った。
ぎゃふん!!ドンガラガッシャーン(自分の妄想に心臓をやられてひっくりかえる)
なんとなく同じグループに入っちゃったから仲良くしていただけなのに、いつの間にかあいつが気になる存在になっちゃって、とうとうひと夏のアバンチュールをきめてしまうやつですよこれは!!
そのうちお互いの家に泊まりにいったりするようになって、夏は暑いからいっしょに寝たりはしなかったものの涼しくなってくるにつれて「一緒でいっか」なんて同じベッドで寝るようになるのだ。目が覚めたらそいつが自分の顔をじっと見てて、「な、なんだよ」なんて恥ずかしくなって目をそらしながらも見つめられるのが嫌じゃない自分に戸惑ったりするのだ。
私は「夏は暑いから嫌」と単純に考えていたのが情けない。夏はこんなにも、こんなにも可能性に満ちた季節だったのか。
古来より日本人は、それぞれの季節のよさを見つけてそれを楽しんできた。私たちも今こそ、夏の暑さにいちゃもんをつけるのではなく、その暑さを楽しむべきではないだろうか。
夏が暑いからこそ、男たちの汗ですけるシャツ姿やタンクトップ、果てには上裸などを拝むことができるのだ。海やプールで人々が水着になれるのは、夏が暑いからなのだから。太陽と夏の恩恵に感謝しよう。
ビバ!夏!!