女子高生並みの強度が欲しい

 十二月に入った途端に風が冷たくなって、日々震えながら過ごしている。

 いやほんと、ここ数日でびっくりするほど気温が下がった。

 ついこの間までは日中の日差しは暖かくて、冬物の上着を着るかどうか迷うくらいだったのだ。ズボラな私はパーカーを一枚羽織って出て行っては、「あ~、寒いな~」とちょっと後悔しながら過ごしたりしていた。

 それが急に二日前くらいに、同じ格好で外に出たら全身に鳥肌が立ち、「なんじゃこれぁ!寒い!」くらいの寒さになったので驚きだ。

 大慌てで冬物を出して、マフラーやら手袋で防寒するようになったのだが、突然すぎてこたつも出していない。部屋がものすごく寒い。家の中に居るのに手がかじかんでいる。

 というわけで、極寒の部屋の中でパチパチ文字を打ち込んでいる次第だ。ううう、寒い。

 どんなに寒くてもしなければいけないことはあるので、今日は防寒具を着こんで街に繰り出した。えっちらおっちら自転車をこぐ。

 寒い!とにかく寒い!

 北風が服の繊維の隙間を縫って、地肌にダイレクトアタックしてきているような感じがする。

 脳裏に紫やら金やらの豪華な色をした、ひとでみたいな髪型の男がよぎる。あのデザインを思いついた人は天才だとしか思えない。

 冷たい風に顔をやられて、涙までちょっぴり滲む。寒いと肌が痛くなったり、目がしばしばするのはなんでなんだろう。

 特に耳だ。寒すぎると耳がキンキンに痛くなるが、あの原因を知りたい。実際にはなんともないのに、ちょっと触られただけで切れたような感じがする。

 そういえば中高生のことは、通学中にキンキンに冷えた手をうなじやらほっぺたやらに当てられたなあ。死ぬほど冷たいんだけど、犯人の「してやったり」って顔が可愛くて、なんとなくときめいたものだ。

 男の子のイタズラって、ほんとうに他愛なくて、その分だけ愛おしい。

 思い出に浸りながら駅に自転車をとめて、近くの銀行まで黙々と歩く。

 道行く人たちも寒さに首を縮めて、なんだかちょっぴり顔が険しい。そこ行くお兄さん、そんな顔してたら額に皺ができちまいやすぜ。

 元気に歩いているのは、でっかいぬいぐるみやらキーホルダーやらをぶら下げたカバンを背負った女子高生くらいだ。

 これでもかといわんばかりに短いスカートから生足をちらつかせて、きゃいきゃいはしゃぎながら歩いている。

 「めっちゃ寒くない!?」

 「この寒さありえないよね~」

 「修造居なくなったから寒波きたんでしょ?」

 へえ、修造いま日本に居ないんだ。ていうかそのネタって、女子高生にまで浸透してるんだ。

 微笑ましく思いながら彼女らを見送る。

 どんなに寒くてもスカートは膝上十センチ。マフラーは可愛さ優先なのか、薄くてヒラヒラしたのをつけている。

 女子高生って強い生き物だよなあと思う。私が現役高校生だったころも、彼女たちは見るからに寒そうな格好をして、ほっぺたを赤くしながら笑っていた。

 学校の先生の注意とか、街中のいやらしいおっさんの視線とか、そんなものに挑むかのように短いスカートを履いて思い思いのオシャレをする。

 テレビでピー子が「オシャレはガマンなのよ!」と叫んでいたが、彼女たちのそれは戦いに近い。戦闘服に身を包んだ彼女たちは、我が物顔で町を歩く。

 私はといえば、もっさりしたコートに身を包み、ズボンの下には股引をはいて、マフラーをきちきちに巻いている。うーん、オシャレとは程遠い。

 いいんだ、私はオシャレな自分を見せたい相手もいないし。そう思いつつも、心を吹き抜けていく木枯らしを止めることはできぬ。春は遠い。

 ちょっとくらいオシャレをしてもいいんじゃないかと、銀行で用事をすませたあと、ちょっぴり膨らんだ財布を持って地下街を冒険してみる。

 なんだかキラキラしい装飾がたくさんあって、着飾った店員さんたちも華やいでいる。

 適当にお店に入って、なにかピンとくるものはないかと探してみる。

 あんまり高いものは買えないので、ちょっとしたもの……それで出来れば役立つものとなると、手袋か。

 「すみません、手袋ありませんか?」

 「ありますよ、レディースですか?」

 さすがに私はどう見ても男だろうと思うので、不思議に思いながら「メンズです」と答える。店員さんは「あっ!でしたらこちらです~」と、慌てて手袋を見せてくれる。

 ふふふ、私があまりにも愛くるしいものだから、女の子だと勘違いしたんだな。ああ、私って罪な男……。

 残念ながら気に入ったものはなかったので、諦めてさっさと店を出る。他の店も物色するがやっぱりいいものは見つからない。

 オシャレをするには、地下街はいまどきすぎたのかな。でも私だって若者なはずなのに、なぜこんなにもピンとこないのか。微妙に世の中と隔たってしまっているような気がする。

 ちょっとしょぼくれながら歩いていると、広場のようなところに出た。普段は無い飾りがたくさんあって、真ん中には大きなクリスマスツリーも立っている。

 クリスマス!?

 私は驚愕した。道行く人々がどことなく楽しげなのも、地下街がやたらときらびやかに飾られているのも、全てはクリスマスのためだったのだ。

 つまりあの店員がレディースかどうか尋ねてきたのはそういうことだ。許さない、絶対にだ。

 くそう、ちょっと街を歩いてみただけでなんたる仕打ちだ。私は敬虔な仏教徒になるぞ、ファッキンクリスマス!

 あ、でもケーキは食べたい。それからチキンもおいしい。うーん、今回だけは勘弁してやることにしてやるか……今回だけだからな!

 私も戦闘服が欲しい。寒くても痛くても、自分の意思で身にまとう服。

 これはサンタクロースとやらにはプレゼントできないものだ。私が自分で選ばなければならない。

 だけどなあ、服って高いんだよなあ。

 サンタさんへ。今年は服を買う現金を靴下の中に入れておいてください。