読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

痛みもろとも抱きしめて

日常

 九月に入ってからというもの、家にこもりっきりだ。このままでは家の中でしなびてしまう。

 引きこもりにうんざりしてスーツでもクリーニングにだそうかと出かけたら、お店がお休みだった。なんてこったい。

 金土日は需要が増えるので値段を高くして、木曜日に駆け込みで服を出そうとする人間をシャットアウトするという戦法か。おのれクリーニング屋め、アコギな商売をしおって。

 こうして引きこもって暮らしていると、人って外界と断絶しててもわりとやっていけるんだなと思う。

 最近面と向かって言葉をかわしたものをちょっと考えてみよう。

 コンビニの店員、スーパーの店員、本屋の店員。

 でも買い物するときには黙ってお金を出すだけで特に言葉は発しない。もしかして私、この一週間誰ともまともに会話してない……?

 ネットを通じて電話することはあっても、人と顔はあわさない生活。からっ風が心を吹き抜けていくぜ。

 テレビはいちおう見れるのだがまったくつけないし、このまま世俗から離れっぱなしでいれば解脱できるのでは?

 そう思ったそばから、「解脱といえば昔は寺には男しかいなかったせいで、寺社にはホモがはやっていたらしいのう。その時代に生まれれば僧侶にでも坊主にでもなったものを、ぐしし」と考えている。

 私の心自体が俗を生み出しているので、解脱は難しそうだ。

 とかなんとか考えながら昼飯の蕎麦(近所のコンビニで買ってきた)を食べていたら、猛然と腹が痛くなってきた。

 胃を内側がらチリチリ炙るような痛みだ。

 「ぐおお、なんじゃこれは。ハリネズミでも飲み込んだかの……」

 慌ててトイレに駆け込んで腹を抱えた。思考はすでに、近所の病院が何時から何時までやっていたか探っている。

 我ながら貧弱だとも思うが、精神衛生的にも病院に行けるかどうかってとても大事だ。

 この腹の痛み自体も世間一般的にはたいしたことないのかもしれない。女の子の月一のアレとかに比べれば、はるかにマシであろう。

 しかし自分の痛みは自分の痛みだし、ごまかしのきかない一大事だ。狭いトイレに不穏な声を響かせながら耐え忍ぶ。

 これはアレだ。きっとここ二日間ほど起きるのが遅くて朝食を食べず昼に買った弁当も残すせいで、一日の食事が弁当一個みたいな生活を送っていたからだな。

 いやそれとも外が涼しいのに冷房をいれてしまって結局部屋の中のほうが暑くなったりとか、それに気づいてあわてて窓を開けて扇風機をつけて一気に体を冷やしたりしたからか?

 思いあたりがありすぎる。

 とりあえず正露丸を飲んでベッドに倒れこむ。

 うう、腹が痛くてなにもやる気にならないぜ。

 「大丈夫?」と普段より少し低くなった声で聞かれる。

 心配をかけたくなくて「大丈夫だよ」と笑ったら、「ぜんぜん大丈夫な顔してないって」と額をこづかれた。

 そのまま手を滑らせてそっと掌に重ねてくれる。自分の手が汗ばんでるのがわかって慌てて引こうとすると、反対側の手も重ねてぎゅっとされた。

 「痛かったら痛いって言えばいいし、しんどかったらしんどいって言えばいいよ」

 ひんやりした手が心地よくて、ふっと心が緩む。心なしかお腹の痛みがひいていく。

 目を閉じて体の力を抜くと、今度は背中に手をあてて抱き寄せられる。ゆっくりとさすりながら抱きしめられて、甘やかな感覚に身をゆだねる。

 「腹痛いの治るまでこうしてるからな、きつくなったら言え。あ、晩飯はおかゆにしようか」

 「うん、ありがと……」

 「いいってことよ。そのかわり今度晩飯つくって」

 屈託のない笑顔とそれでも伝わる心配している気配が嬉しくて、首元にそっと頭を預けた。早く治るといいな。

 ハッ!腹痛のあまり白昼夢をみてしまった。

 「治れー、治れー」と念じながらゴロゴロしてたら気がついたら寝入ってしまったようだ。一時間ほど寝て気分爽快!

 きっと夢の中の彼が治してくれたのね、はやく現実にも出てきてほしいわ。シャイなんだから。

 え?正露丸の力?あぁはいはいそうかもね、君には夢がないなぁ!

 「治ったぞー!」と心の中で叫びながら、無言で起き出してアニメを見る。

 はぁ、別に腹痛が治ったところですることもないんスよね。

 そうこうしているうちにほとんど食べれなかったせいでお腹がすいてきたので、食べ切れなかった残りの蕎麦を食べる。

 割子蕎麦なので、冷蔵庫にいれておけば伸びずに食べれるという寸法だ。

 蕎麦を食べたらなんだか眠くなってきたので、再び眠る。寝る子は育つからな。

 ここで今日一日の睡眠時間を計上してみよう。

 九時に起きる→十時から昼まで寝る→腹が痛くなって一時から二時まで寝る→眠くなって七時から九時まで寝る。

 昼寝だけで五時間寝てる!

 こんだけ寝てるのに育つどころか不健康まっしぐらだ。睡眠はやはり決まった時間にとるべきである。

 たくさん寝たおかげか腹痛はすっかり治ったが、奴らは突発的に襲ってくるので油断ならない。

 例えるなら犬の尻尾みたいなもので、寝ている間はおとなしいがうっかり踏んづけるとものすごい勢いで噛み付いてくるのだ。

 原因がわからなくて不安なので、病院にいこうかなぁ。でも痛くないのに病院にいくのもなぁ。

 ちょっと病院に行くか行かないかくらいでウジウジと悩む、こういう神経の細さが私の胃を痛めているのかもしれない。なんたる腑抜け。

 腹痛は治ったが、原因がわからないのでなんだか不安だ。とりあえず生活を健康的に……ってこれ書くの何回目だよ!

 ちなみに今の時刻は一時四十八分。こんなもん書いてないで寝ろってか?

 正論だ、私は寝る!