辛辣な優しさにほだされる

 部屋ってどうして掃除をしてもしても、気がついたら散らかっているのだろうか。不思議だ。

 たたんだはずの服も、しまったはずの本やマンガも、気がついたら部屋の中に散乱している。解せないのは、なぜ押入れにしまったはずの服が、いま机の上にあるのかという事実だ。

 ちょっと失礼、机の上にある服はあまりにも気になるので、片付けてしまいますことよ。

 なに、ほいほいとたたんで押入れにしまってしまえばすぐですからね、どっこらしょ。

 そして今帰ってきた。ここに戻ってくるまでに約二時間を要した。

 いったい何をしていたのかって?そりゃあもうやる気が出たのでね、散らかった荷物たちをバッタバッタと片付け……すみません、ウソです。

 片付けてる間に晩ご飯を準備してたのを思い出して、それを食べてたら汗かいたからお風呂に入りたくなって、気がついたらこの時間だ。

 服はちゃんと片付けたが、今度は取り込んだタオルがベッドの上にちらかっている。あぁもう、寝る前に片付けよう。

 この間、寝たいけど寝れずになんとなくテレビのチャンネルをまわしていたら、「月曜から夜ふかし」という番組をやっていた。この番組は、月曜日から火曜日に日付がかわるギリギリの時間から、日本テレビで放送している。

 マツコ・デラックスと、関ジャニ∞の村上信吾がMCをつとめていて、視聴者からよせられたりした情報についてのVTRを見ながらトークをかわすというものだ。

 私はマツコが好きだ。あ、もちろんこの好きは、「マツコのあの体型に魅力を感じる」「抱きたい(or抱かれたい)」といったものではない。勘違いせぬように。

 マツコといえば、歯に衣着せぬ物言いである。誰を向こうに回しても、臆することなくあけすけに話し、それが痛快で見ているこちらまで胸のすく思いだ。

 しかしその一方で、言葉の端々に人情味が見え隠れしているあたりが、私が彼?彼女?を好ましいと思う理由だろう。

 私が見た回では、「全国のオネエを繋いでいく件」というサブタイトルで、さまざまなオネエが暴れまわるVTRがあった。今回は札幌編であったが、冬でも彼女たちがいれば札幌は暖かいだろう。

 みなさんとてつもなくキャラが濃くて、思わずベッドの上で声を上げて笑いながら見てしまった。録画派の人たちのためにここでは詳細は語らぬが、一芸に秀ですぎてどこに向かっているのかもはやよくわからない。

 彼女らは「オネエ」なのか、「芸人」なのか、はたまたその他の何かなのか。謎の尽きない存在だ。

 そこにマツコは「札幌の頂点は『キレイ』じゃないのよね」「あったまおかしいわね~」などと、辛辣ながらも愛のこもった(?)コメントを投げる。

 村上くんは新世界の到来に、若干おいていかれている風情だ。きょとんとした顔が非常に愛らしい。

 ひとしきりトークをしたあと、マツコがふっと「こんな表層的な部分をさらって、ちょっと笑ってくださいみたいなVTRを作られうだけじゃ、私は不満ですよ」と言い出した。

 マツコいわく、オカマはテレビがくれば、ついテレビ的な感じではしゃいでみせてしまう生き物なのだそうだ。そこがオカマのいじらしいところであり、村上くんも「健気というかね」なんて相槌を打つ。

 私はテレビのこっち側で、「オカマのいじらしさは分かるけど、村上くんはほんとに健気と思ってるのかしら?」と、つい皮肉な視線を向けてしまう。

 アンタにオカマの何が分かるのよ!別に私もオカマではないのに、なぜか義憤にかられる。

 「こんなにいじらしい存在であるオカマを、あんまりいじめないでほしいのよねぇ。ヤなの、テレビ的な感じで扱われるのが」「しかもあたしのいる番組でねぇ、こんな風にしか映してあげられないのがどうにもね」

 マツコ、あんたってやつぁ。

 彼女が同胞に向ける、辛辣ながらも温かい眼差しを感じたぜ。あんたこそ、オカマ界のゴッド・マザーだ……。

 私も一度でいいから、マツコに辛辣に優しくされたい。世の中のウソに傷つけられるどこかの誰かのためにこそ、マツコのトゲは鋭くなるのだ。

 

 「マツコ、あんたはいい女だよ。あんたとなら、楽しい酒を飲めそうだ」

 雲の上の存在に対して、勝手にしんみりと親近感を抱く私。

 本人に知れたら「ちょっとあんたなれなれしいわよ!」なんて、切って捨てられそうである。

 人知れずマツコの優しさに思いをはせていたら、話題は次のものにうつっていた。

 

 「村上があるランキングに名を連ねている問題。」というサブタイトルのもとで、マツコにプラカードが渡される。

 掲げたそこには、テレビに疎い私でも知っているような、そうそうたるメンバーが。なんじゃこりゃ、イケメンばっかじゃねぇか!

 俄然色めきたって、寝転がっていた姿勢から思わず跳ね起きる。一体なんのランキングだこれは。

 ランキングに並ぶ名前に、会場の女性たちも声のトーンが上がり気味だ。でも少しどよめきがまざっているのは、村上くんに失礼だと思うぞ、諸君。

 そのどよめきからは、「村上くんがこんなメンバーの中に仲間入りしてるなんて!」という驚きも読み取れる。

 そしてここで、マツコが妙な勘の鋭さを働かせる。いかにもイケメンが並んでいると見える名前の中に、「鈴木亮平」や、「斎藤工」のような、少しばかり濃い目の男性もまじっていることに目をつけたのだ。

 「この二人ってホモに人気なのよねぇ……たぶん、『ゲイに人気の男性芸能人ランキング』じゃない?(プラカードの隠してある部分をチラ見する)ちょっとはやすぎました、あたりました」

 「百点満点やないかい!」

 思わず、「わかるわかる」とうなずいてしまう私。村上くん、とっても好きです。

 先ほど名前を挙げられた人たちはしらなかったので、さっそく画像を検索してみました。そして光の速さでノックアウトされる。

 どっと床の上に倒れ付し、身悶えること数分。こんなに私の心をときめかした芸能人がかつてあっただろうか。いや、ない。

 「鈴木亮平」にしてやられました。はふーん。

 キリリとした眉毛、分厚くて柔らかい笑み、体毛と体臭の濃そうな逞しい身体。床の上で身もだえしたまま、フガフガと画像をあさる。

 フガッ!!なんだこれは!!

 なんと鈴木亮平さん、一時期話題になった「変態仮面」に主役として出演していらっしゃるじゃないですか!!

 つまりこの映画を見れば、鈴木亮平がパンティをかぶったブリーフ一枚姿で、惜しげもなくその肉体を晒してくださるということなの……!?

 今年中に見る映画リストに、「変態仮面」がランクインしました。優先順位一位だ。

 「もうダメだ、部屋が片付かない、死のう」と思っていたが、これで生きながらえることができそうだ。

 変態仮面を見るときまでには部屋を片付け、万全の状態で見ねばならぬ。なぜならこれは、鈴木亮平を部屋に招くも同じだからだ。

 ああん、でも狭苦しくて汚い部屋に呼びつけて、「なんだこの部屋は、ずいぶんちらかってるなぁ。ちょっとだけ片付けるから、時間をおくれよ」なんて言いながら、身をかがめて私の部屋を掃除する姿を見たいような気もする。

 いやいやダメだ、せっかく部屋に呼ぶんだから、最初くらいはキレイにしておかねば!

 それにこれから仲良くなっていけば、部屋がちらかってきた時こそ「しょうがないなぁ」という笑みを浮かべながら、掃除をしてくれるかもしれんしな。

 早くも現実と妄想が入り混じった様相を呈してきた。

 マツコ!はやく私の目を覚まして!