限界バトルはもうこりごり
近ごろ、なんだか体調が悪い。原因は分かっている。乱れきった生活習慣だ。
深夜まで飲み会をして、次の日の昼ごろに起きる。そして夜になれば、まだ飲み会にいく。こんな生活をしていれば当然だが、夜が更けてもちっとも眠れなくなった。
げに恐ろしきは酒の魔力。
「今日こそは日付が変わる前に帰ろう」と決意をしていたところで、アルコールにとろけた頭は、そんな決定などさっさと忘れてしまう。
自分のアルコール耐性のなさが、憎い。そしてなにより、そんな自分を甘やかしている自分の心の弱さが、憎い。
そんなギリギリの毎日を送っていたら、松本くんからカラオケのお誘いがきた。
最近彼とはとんとご無沙汰だったので、二つ返事でオーケーする。ほてほてと駅まで歩き、昼を食べていなかったのでマクドナルドへ乗り込んだ。
今考えてみれば、これが間違いであった。私はもともと消化器系が弱く、すぐに気分が悪くなる。その上このとき、私は体調も芳しくなかった。
そこにオイリーなバーガーなどを流し込んだものだから、内臓が恐慌状態に陥ってしまったのである。
こみ上げる吐き気と戦っているせいで、幽鬼のようになりながら待ち合わせ場所に向かう。松本くんたちはすでにきてくれていた。
彼は開口一番こう言った。
「おー、いつも通りだな!」
私は確かにいつも体調が悪いが、それにしてもそれは酷くないかね!と、叫びたかったのだが、もはや言葉を放つ気力もなくうなずいてみせる。
彼の中での私のキャラ設定は、いつも体調が悪そうなやつ……。
いや、逆に考えよう。そんな私でもかわらず接してくれているというのは、彼が私にそれだけ好感をもってくれているということだ。
強く生きて、私!
ヘロヘロの私はカラオケの個室につくとすぐに、ソファにどっと倒れこむ。
気分としては「武蔵坊弁慶の立ち往生(立ってないけど)」なのだが、松本くんは「死にかけのナマズみたいだな」といわれた。いくらなんでも酷くないか。
ソファにへばりついたスライムのようになった私をほうって、選曲をしだす友人たち。そのうちにピピピッと電子音がなり、テレビに映像が映る。
「これは、私が10年前に、実際に体験した話です……」
おどろおどろしいBGMとともに、ホラー番組でおなじみのナレーションが流れ出した。
私はチラリと画面をみて、確実に心霊的ななにかが始まったことを確信し、ついに叫んだ。
「なんでカラオケにホラーがはいってんだよ!そしてなんでお前らはそれを入れてんだよ!」
講義の声もむなしく、流れ続けるBGMに耐えかねた私は、松本くんの腰にかじりついた。状況としてはおいしいはずなのに、体調が悪いのもあいまってそれを楽しむ余裕すらない。
いまどきのカラオケは方向性を確実に間違えている。少なくともホラーをいれる必要はないのではなかろうか。
そんなことをしても世の中のバカップルが、「やだー!けんちゃん、私怖いよ!」「こっちこいって、抱きしめててやるからさ」なんていちゃつくこと以外に役に立たないぞ。
私がカラオケ屋の店長になったら、私の店からはホラーなんて排除してくれるわ。
ショック療法(?)が効いたのか、回復してきた私は、椎名林檎さんの「都合のいい身体」を歌ったのだった。
次回誘われたときには万全の体調で臨むべく、日々摂生することをここに誓う。