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雪やこんこん

日常

 昨日の天気予報で、「今日が冷蔵庫なら、明日は冷凍庫なみの冷え」と言っていた。これはまさかと期待していたら、そのまさか。今日は久方ぶりの雪である。

 私の住む地域ではほとんど雪が降らないので、たまに雪が降るとみんなして大はしゃぎだ。冬は嫌いだといっている友人たちも、雪が降ったときばかりは少しだけうきうきして見える。

 朝起きてあたりが銀世界だったりすると、まっさらな雪に一番乗りで足跡をつけてやろうと、子どもたちのはしゃいだ笑い声が聞こえたものだ。近所の車は子どもたちに雪をぬぐわれて、なんとも情けない有様になる。

 私が高校生のころに、二回ほど大雪が降った。一度目は一年生のとき。クラスのお調子者な男子たちが朝から雪を教室に持ち込んでいた。襟から中にいれたり、顔にあてたりして楽しむためだ。

 入れられたほうは慌てふためいてシャツをひっくりかえすので、非常に眼福なイベントであった。

 当時から、男同士の微妙な機微に敏感(妄想過多気味)だった私は、「もしかしてあいつは奴の体を見るために」と邪悪にほくそ笑んだものである。

 真っ白な雪とともにはしゃぐ男子は眩しいぜ。

 昼休みは当然のように、中庭で雪合戦が行われた。私は基本的にひきこもりで、イベント毎には参加しない。しかしこのときばかりは、雪の魔力にあてられて中庭にかけていった。

 さすがに雪合戦には参加せず、かたわらで雪だるまをつくっていたことを覚えている。隣のクラスの大柄な男子が、なかなかに大きくなった雪玉を見て、「オレがのせてやるよ」とひょいっと持ち上げてくれた。

 反対側の角では受験に疲れた先輩が、雄たけびをあげながら雪像をつくりあげていた。どんな雪像だったのかは覚えていないのだが、二メートルくらいの高さの塔であった。

 中庭に響き渡る叫び声もさることながら、その雪像もずいぶんと意匠を凝らした立派なもので、その年の卒業アルバムに載ったらしい。

 二度目は受験シーズン真っ盛りのころだ。ちょうど、前期試験が終わったころだったように思う。

 センター試験も前期試験も終わってすっかり腑抜けていたので、雪がふったからという理由で授業をサボって友人と遊んでいた。

 しばらく雪いじりをした後、そのまま友人の家で映画を見て、ゲームをしようという話になった。

 たしか、「ダークナイト」という映画だったように思う。ピエロのような外見をしたおじさんが、テロをおこす話だ。バッドマンの続編にあたるらしい。違ったらすいません。

 その主人公的な悪ピエロがイカしていて、ぐっときた。まだご覧になっていない方は、ぜひ一度どうぞ。

 さて、問題はその後だ。我が敬愛すべき友人は、なんのゲームをするのか一向に教えてくれない。

 「まぁとりあえずやってみようぜ」の一点張りで彼の部屋までつれていかれる。

 正直に言って、この時点でなんだか嫌な予感はしていてのだ。そして私の嫌な予感はよく当たる。

 さもありなん。友人の部屋で待っていたのは、「零」とかいう和製ホラーゲームだった。私はホラーが苦手だ。

 どれくらい苦手かというと、小学生のときに親に無理やりオバケ屋敷に連れて行かれそうになって、建物が見えた時点で泣き出し、出入り口で地面にかじりついて拒絶したほどだ。

 彼らは嫌がる私を放置して初めてしまったので、仕方なく背後に陣取る。なんだかこれだと、私が背後霊みたいだな。

 半ば諦めたころに、コントローラーが私にまわってきた。もうどうにでもしてという気持ちで、仕方なく受け取る。

 「ほら、つかまっていいから」と背中をポンポンとされ、後ろからシートベルトのように友人に抱きついた格好で、肩の後ろから画面を覗く。こ、この体勢はかなりグッとくるものが!と思うが、口にはしない。

 なんだかこの格好、ご飯を食べ終わってダラダラいっしょにテレビを見てるカップルみたいだな。

 そんな思いもつかの間、出るわ出るわ、出まくるわ。ビビりまくって手元不如意になった私は、コントローラーをとりおとす。あぐらをかいている友人のすねの上に落ちるので、「いてぇよ!」と文句を言われるが、それどころではない。

 主人公はまっすぐこの建物から逃げ出せよ!なんでわざわざ探検するんだよ!

 結論。ホラーゲームはもう二度としない。

 私はホラーは苦手なのだ。苦手だったら苦手なのだ。苦手なものにチャレンジする精神を私はすごいと思うが、それはそれとして別にチャレンジしたくない。

 というわけで、私はとっとと諦めてコントローラーを放り出した。全てを友達に任せた私は、窓辺で友人の布団にくるまって、しんしんと雪の降る外を眺める。さすがイケメンだけあって、布団からいい匂いがするぜ。

 今書いていて、雪一つにしてもいろいろ思い出があるんだなぁと懐かしくなった。もしも来年雪が降れば、今日のことを思い出すのだろうか。

 年を重ねれば重ねるほど、過去は増えていくのだ。きっと来年の私は、今年の私とは違うことだろう。

 おっと、新年始まって間もないのに、もう来年の話をしてしまった。毎日を着実に送ればいいと思うのだが、気がつくと先のことを考えてしまう。

 終わってしまったことは仕方が無い。まだ起きていないことは気にしてもしょうがない。心配とは考えなくてもいいことを考えているから、生まれるものなのかもしれぬ。

 どうせ考えるなら、雪降る中での男二人の物語のほうがずっといい。

 大雪にテンションがあがって外ではしゃぎまわるチビの友達が、頭に雪をたくさんつけてかえってくる。背が高くておっとりした彼は、そのかわいらしい友人の頭から優しく雪を払い落として、ついでに少しだけ撫でてあげるのだ。

 「へへへ、ありがとー!」なんていいつつ、また雪の中に駆け出していく友人の笑顔がかわいくて、やれやれと首をふった後、彼も雪の中に消えていくのだ。

 あら、なんだかいい感じね。その調子で「外は寒いけどくっついてればあったかいな」なんて抱きしめられて、真っ赤になってくれたりしないかしら。

 除夜の鐘は煩悩を消してくれるらしい。それなら私は、毎日朝から晩まで除夜の鐘をつき続ける必要があるかもしれない。

 それだけ鐘をついていれば、きっとこのような邪念に囚われることなく毎日を送ってゆけるだろう。さらに全身を使って鐘をつくことで体も鍛えられ、一石二鳥である。

 というわけで、どなたか私に除夜の鐘を送ってください。あ、でも私の部屋には除夜の鐘は入りきらないので、鐘ルームつきの家もお願いします。防音だとなおよい。