薬局で何をご所望ですか
久方ぶりの更新である。新年あけてからこちら、何かとバタバタとしていて更新が途絶えがちであった。ていうか完全に途絶えていた。忙しかっただけで、サボっていたわけじゃないんだからね。
この一月の間、なにが私を悩ませていたのかという問題に答えるのは、非常に簡単である。卒論だ。卒論に私は苦しんだ。
「ええいこんなもの!」とビリビリと千枚に破いて、窓から投げ捨てたい衝動にいったい何度駆られただろう。ついに私はやりきったのだ。
というわけで、今日は卒論を終えた仲間たちと寿司を食べに行ってきた。
正直言うと、卒論の間も飲み会には顔を出していたのだ。しかしやはり、全てを終えてスッキリとした気持ちで食らう寿司はうまかった。くうう、わさびが鼻にツンときやがるぜ。
寿司には仲良しの森ちゃんも同席していた。彼女は序盤でエビ、甘エビ、炙りエビのコンボを決めた後に、「今日はエビ以外も食べる」と声高に宣言していた。彼女はいつもエビ系統の寿司ばかり頼んでしまうそうで、今日はそれ以外も食べようと心に決めたらしい。
その後はアワビやイクラなどをもりもりと食べ、彼女の前には皿がドンドンとつまれていった。食いっぷりのいい女である。
私は小食なので、タワーというにはおこがましい数しか食べなかった。こういうときにぱくつけないのは、なんとなく寂しいものである。
食いっぷりのいい人というのは、いっしょに食事をしていて楽しい。元気よくしゃべりながら皿を空にしていく様は、見ていて気持ちがいいものだ。
今年の目標は、「バクーッと食べて、ゴクーッと飲んで、スカーッと寝れる私になる」に決定した。
回転する寿司際に座っていた森ちゃんにお茶のおかわりと頼むと、森ちゃんは言った。
「ところでさー、このお茶のシステムってもうちょっとなんとかならないのかな!」
「なんとかって?」
「これムダな力を使わされてる感あるじゃん。取っ手つけてくれればいいのに」
言われてみればそうである。なぜ回転寿司のお茶は、コップを奥に押し付ける仕様になっているのだろうか。取っ手がついていれば便利なものを。
やはり熱湯が出るので、少し出しにくくしておいたほうが安心ということであろうか。
それよりも私は、寿司屋においてあるお茶の粉はどうしてすぐに沈殿してしまうのかが気になる。寿司を食べていたら、底に粉が沈んでいくのだ。
結局お湯を飲むのと変わらないので、みんな次々にお湯をついでいく。
「白湯っておいしいよね」
「うん、わかる。体もあったまるし」
そう言いながら、湯のみの下に手をあててお湯を飲む私たち。まだ20代のはずなのに、なぜか漂うのは敬老会の雰囲気だ。
なんならこのまま外見が年をとっても、私たちの行動はあまりかわらないに違いない。少し緩慢になるくらいだろう。
「あ、私はお湯が好きすぎて、いっつも蛇口ひねってお湯だして、それをポットに入れて学校いくよ!」
「いやそれはちょっと」
森ちゃんの思いも寄らない発言が面白くて、私たちは屈託なく笑ったのであった。
近頃のお寿司屋さんのメニューにはアイスがよくある。私たちはそれを見て、デザートにアイスを頼むつもりでいた。しかし近所のサーティーワンがまだ開いていたので、会計をすませてから自転車をこいでそっちでデザートをいただくことにした。
寿司からサーティーワンとは、すばらしい贅沢だ。卒論をやっつけたのだ。そのご褒美ということで、金に糸目はつけないことにした。
さすがに八時過ぎのサーティーワンには人がおらず、店内は貸切状態だった。後ろを気にすることもないので、アレがいいコレがいいとアイスを選ぶ。
ちなみに私はフルーツが苦手だ。なので選ぶアイスは、バニラか抹茶かクッキー&クリームが多い。小学生のころから抹茶が好きなので、今日は抹茶を選んだ。
それぞれ頼んだアイスを手に席に座ってお喋りをしながら食べていると、なぜか続々とお客さんが増えてきた。食事ができるお店の多い場所なので、おそらく晩ご飯を食べた後でデザートを食べに、みんな寄ってくるのだろう。
しかしやたらと男性客が多い。家族連れか男性のグループだ。この地域はどうなっているのだ。
「なんか男の人のお客さん多いね」
森ちゃんの発言にうなずく私たち。なんだかとっても気になるぞ。
そう思っていたら、ついに男子が二人きりで店内にいらっしゃった。会話が不自然にならないようにしながら、彼らの一挙手一投足を見逃さぬよう警戒する。
二人とも年のころは20ほどで、いかにも運動部的な見た目である。片方はゴツいリュックサックにジャージをはいていたので、おそらく部活帰りであろう。もう片方は茶色くて分厚い上着にジーンズで、オシャレなカバンを斜めがけしていた。
オシャレカバンの男子は付き合いできただけなのか、しばらくアイスの並ぶケースの前でしゃべったあと、さっさと席について携帯をいじり始めた。
ジャージ男子はたっぷりと時間をかけて選んだあと、種類はなにかわからないが三つ積みあがったアイスを受け取っていた。
先に席でまっていた彼のもとへ行くと、二人でなにやら睦ましげに携帯を見せ合ったりしている様子。何を見せ合っているのかとても気になる。
しまいにはお互いの頭がくっつかんばかりに近づいて、なにやら一つの携帯をいじり始める。窓際の二人席でその距離感。一体どういう関係なのか。
いやいや。みなまで言わなくとも私には分かる。なんせ私はこういったことのプロだからな。
ジャージ男子とオシャレカバンは間違いなく、恋愛関係にある!!
今日はジャージ男子の部活が終わってから合流し、二人で晩ご飯を食べたのだろう。近場には男子大学生の腹も満足させてくれる、おかわり自由のハンバーグ屋があるからな。
そこで二人でガツガツとハンバーグを平らげたあと、そのまま帰るのも惜しくてジャージ男子が切り出したのだ。
「オレ甘いもんくいてぇなー」
オシャレカバンは甘いものがそこまで好きではない。しかし甘いものを食べているときの幸せそうな彼の顔が好きで、付き合うだけならとサーティーワンまできたのである。
うんうん、これならやたらと近い二人の距離感にも納得いく。きっとオシャレカバンはジャージ男子の幸せそうな顔がかわいくて、それであんなにも近づいていたに違いない。
一度など、ジャージ男子はオシャレカバンの肩に手をまわしていた。なぜ対面で座っているのにそんなマネをするのかまったく分からないが、触れたくてたまらなくなったのだろう。なんならキスしてくれてもよかったのに。
結局、私たちとその二人は閉店時間まで店内でダラダラとお喋りをして、解散とあいなった。
楽しく友人とお喋りしながらホモを鑑賞できる、非常に有意義な時間だったといえよう。
ちなみにその二人はその後、サーティーワンの隣にたっている薬局に消えていった。薬局に消えていった。大事なことなので二回言いました。
プロの私に言わせれば、あの二人はおそらく夜の営みに向けて道具を調達しに行ったと思われ……おっと、これ以上は自主規制することにしよう。彼らのプライベートだからな。
しんと冷えた夜、互いの体温を求め合う男同士。冬ってなんてすばらしい季節なんだ。ぐしし。
一月の間はひたすら忙しく、その穴を埋めるかのように道行く男がホモに見える。もうすぐバレンタインデーというイベントがあるが、男子たちの動向から目が離せないなと、今からほくそ笑む次第である。