心に吹き抜ける寒風も遮っておくれ

 道端ですれ違った、赤いシャカシャカを着たぽっちゃりした男の子と、青いシャカシャカを着たすらっとした男の子が、ほっぺたをつつきあっているのに見とれて、電柱に右膝を強打した。

 往来で悲鳴をあげるわけにもいかず、「ふんっ……ぐぅ……」と苦悶の声をこらえて、それでも彼らから視線をそらさなかった私を誰か褒めてほしい。二人は仲睦ましげに笑いあいながら、スポーツ用品店へ入っていきましたとさ。

 さすがにその中までは追うことができなかった。くちおしや。

 きっと彼らは中学時代からの仲良しで、大学に入って太り始めたぽっちゃり君のために、スリム君が運動をしようと持ちかけたに違いない。初めは渋ったぽっちゃり君も熱心に誘ってくるスリム君にほだされて、スポーツ用品店へでかけたのだ。

 無事に道具を買い、運動をする二人。汗をぬぐうために服をまくってチラリと見える腹筋から思わず目を逸らしたり、「よっしゃー!」と歓声を上げる相手の無邪気な様子がかわいく思えてしまったりして、仲も深まることであろう。

 汗をかいた後は風呂に入るわけだが、近所の銭湯まで二人で出かけたりするのだろうか。それで「お前マジで肉やばいな」なんて笑われながら腹を触られて、「わ、ちょ、やめろって」と照れたりするのだろうか。

 そんなことして友情以上の何かが育まれても、知らないんだからね!

 ところで、冒頭で「シャカシャカ」と形容したあの服はなんという名前だっただろうか。よく体育会系の部活の人が着ているアレだ。なにか必殺技みたいな名前だった気がする。

 まぁいい、シャカシャカはシャカシャカだ。ていうかこれ通じるのだろうか。通じたらいいな。

 私はあの手の服をあまり好まないので、普段は厚手のコートを着用している。今日も適当にコートを羽織って買い物にでかけた。近頃はめっきり寒くなったので、マフラーも手袋も標準装備である。

 なにしろ冷え性なものだから、うっかり手などを露出させたままで居ると、氷もかくやという冷たさになる。爪は紫を通り越して、色を失う。

 私の手を太ももの間であっためてくれる、素敵な男性を待っています。

 道の途中で、今度はコンビニ前にたむろする男子学生二人組を見た。学ラン姿がかわいらしく、見ているだけで癒される。信号待ちの間、頬を緩ませながら眺める。

 そして違和感に気づく。こ、この子たち、この寒いのにパピコをわけっこしている!

 もしかしてこれは、A君がワガママを言って、B君が仕方なさそうに付き合っているというシチュエーションでしょうか。

 B君は実はA君のそんな常識にとらわれない天真爛漫なところに惹かれていて、表面上は乗り気でないようにしていても、パピコをわけっこするというカップルみたいな行為にテンションがあがっていたりするのでしょうか。

 がんばれB君!この寒いのにわざわざ半分こしなきゃいけないパピコを買うってことは、きっとA君もあなたとカップルみたいな行為がしたいって思ってるぞ!

 ここで一発、B君が男を見せてくれるかと期待したのだが、信号がかわったのであえなく発進。くちおしや。

 スーパーで買い物をしながら、今夜の晩御飯を決める。大体行き当たりばったりなので、買い物も適当だ。学生の一人暮らしの悲しいところだが、魚類はあまり食べられないのが悲しい。私は魚類が好きなのに。

 何を食べたいか決めかねて肉のコーナーをフラフラとしていたら、私の横にギャルたちが現れた。どうやら肉を買うようだ。しかし片方が、やけに物憂げである。

 「私さー。もやし、買いたかったんだよね」

 「うんそっか。なんで買わないの」

 「だって足早いんだもん」

 こ、このギャルたち、なんて所帯じみた会話をしているんだ。やけに家庭的なギャルの隣で、「そんな顔しなくても食べたいなら買ったらいいじゃん!」と突っ込みを入れる。

 「確かに腐らせたら面倒だもんね」

 「うん……」

 「あ、うち韓国海苔が大量にあるよ」

 「えっ!食べたい!!」

 唐突にテンションのあがるもやしギャル。なんで韓国海苔が大量にあるのかも、どうしてそこに食いつくのかも、私には分からぬ。分からぬが、ほのかに芽生える隣人愛。

 もやしもいいなぁという気がしたので、晩御飯は豚肉と野菜の炒め物にすることにした。メニューのアイデアをくれたギャルたちに感謝だ。

 それにしても、彼女たちは一体何をつくるつもりだったのだろうか。カゴの中には、タマゴとニンジンとホタテとアスパラガスが入っていた。うーん、まったく想像できぬ。

 しかしもやしの足の早さを気にするほど所帯じみている彼女たちなら、きっとおいしい夕飯にありつけたに違いない。

 こうして生きていると、世の中には色んな人がいることを知る。私はついつい外見で判断してしまいがちだが、改めねばなるまい。

 外見が悪いというだけで風当たりが強くなるのも、本人からしたら辛いものだろう。

 思い出した、ウィンドブレーカーだ!あのシャカシャカはウィンドブレーカーという名前だ!

 風当たりが強い、から思い出してしまった。発想が八艘飛びしている。あ、今度は親父ギャグを言ってしまった。よくないよくない。

 私も外見で判断されて嫌な思いをすることがある。一度など、すれ違い様にいきなり「ブサイク」といわれたことがある。失礼極まりない。

 ウィンドブレーカーをきて、風当たりの強い世の中を生きていくのも、悪くは無いかもしれない。ブレーカーという名前なのだし、きっと風をさえぎってくれることだろう。

 おっと。ここで視聴者の方から、「お前は外見で判断云々よりも先に、男子お二人様を目撃するたびに脳内で変な物語を捏造するのをやめろ」というメッセージを受信しました。ってこれはどこ層に向けた番組なんだ。

 なにはともあれ、そんな批判に対する私の答えは一つである。

 そんな夢の無い人生、願い下げだ!