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男子中学生の男気に惚れる

 「この野郎!マジメにやりやがれスットコドッコイ!」と、ネットゲームに興じながら怒りを炸裂させる。私は海外の対戦型のゲームをよくやっているのだが、これが曲者なのだ。

 このゲームは五対五で行うものであり、味方にきちんと役割を果たしてくれない者がいると大変困る。ゲームとは言え人に迷惑をかけるようなことをされると、頭にカーッと血が上ってしまう。

 それで深夜に「んがぁー!このド畜生が!」と、思わずぶち切れてしまうわけだ。沸点が低めなのでな。

 という話をバイト先の塾で生徒の光くんに話すと、「ちゃんとしない奴がいるとムカつくってのは、オレもわかります」と同意を得られた。

 光くんはいつでもツンツンに髪の毛をセットしている少年だ。いかにも夏と海と太陽が似合いそうな褐色肌に白い歯をした、爽やかイケメンである。高校時代に、冬と室内と曇天が似合うと友人に言われた私の、対極のような存在だ。

 彼はつり目で悪そうな外見をしているのだが、実は柔道へひたむきに打ち込む硬派な中学生である。確かによく見ると逞しい体つきをしているぜ、ゲッヘッヘ。

 初対面の際に一見してイケメンであると断じた私は、「さぞかし女性にモテることでしょうなぁ」と下世話な発言をしてしまった。しかし彼の返答は意外なものであった。

 なんと女子は苦手であり、彼女らにも怖がられているようだと言うのだ。もしかしてシャイなあんちくしょうなのだろうか。もしくはそっちのケあり?

 当然のように「それほどでもないですよ、はっはっは」というような返答がくるものと予想していたので、肩透かしをくらった気分である。

 しかしそれにはきちんと理由があり、私はそれを聞いて彼への評価を改めた。どのように改めたのかは、以下の話を読んでくれればおのずと分かるだろう。

 いつものように授業中に心地よい眠りをむさぼっていた光くんは(この時点で「寝るなよ」というツッコミはしたのだが、それを取り返すために塾に通ってきているので許した)、異臭に目を覚ました。

 気分の悪い臭いの元を辿ると、廊下で中学生の女子がプカプカとタバコをふかしているではないか。

 もともとタバコの臭いが嫌いな光くんは、授業が終わるのを待って迅速に行動を起こした。つまりその女子たちに正面きって、「おめぇらくせぇんじゃ、タバコ吸うのやめろ」と啖呵を切ったのである。

 男子以上に体面を気にする不良少女たちは、すぐさまキーキーと彼にむかってわめき散らしたそうな。

 常日頃から屈強な男相手に組み手をしている光くんがひるむわけもなく、彼は泰然と「おめぇらがわりぃのはかわらん。それも分からん奴と話すことはねぇ」と返し、あとはシカトを決め込んだ。

 女子相手にキツい言葉を放つことに抵抗はなかったのかたずねると、「だってあいつらくせぇしきたねぇし、あんま女子って感じがしないんスもん」とのことだった。おおう、硬派……兄貴、一生ついていきやす!気分はもう舎弟だ。兄貴に惚れやした。

 もちろんここまでコテンパンにやられて、プライドばかりが高く繊細な心を持った不良少女たちは顔真っ赤である。しかし自分で光くんに勝てないことを分かっている彼女らは、やり方を変えた。

 仲間の不良少年を呼び寄せたのである。なんというか、マンガの世界のお話のようだ。昭和だろうと平成だろうと、不良たちの行動パターンは変わらないらしい。

 「おめぇ、オレの女に手ぇ出してくれたらしいな」

 「…………」

 「おい、なんとか言えや!」

 「…………」

 「シカトしてんじゃねぇぞコラァ!」

 いいところでツッコミを入れるのは恐縮だが、オレの女という言い回しを現代の少年が使うものだろうか。光くんの話の中にはこのセリフが出てきたのだが、ひょっとしたら不良少年Aくんは極道モノのマンガを愛読してるのかもしれない。

 もう正直ここまでで、ステレオタイプな不良たちとのやり取りに手に汗握るやらおかしいやらで、私はかなりツボにきていた。いいぞ光くん!もっとやれ!

 シカトを決め込んだ光くんに襲い掛かる不良少年。しかし不摂生な生活を送る不良少年ごときに遅れをとる、我らが兄貴ではない。

 一撃をかわした光くんは、柔道仕込の大外狩りで奴を大地にたたき伏せ、一本勝ちしたのだった。まさに会心の一撃

 しかし問題はここからだ。光くんの大外狩りは威力が高すぎたようで、不良少年(ややこしいのでここからは噛ませ犬くんと呼ぶ)は痙攣しつつ気を失ってしまったのだ。うーん、スライムよりも弱いのではなかろうか。

 ここは一つ、「魁!!男塾」の「お前が弱いんじゃねぇ、俺が強すぎるんだ」という名言を使うとしよう。

 その後教員が病院へ連絡し、救急車が到着。学内は騒然とする。そして遅れてパトカーも到着。学内での傷害事件とみなされたようだ。多くのギャラリーが見守る中、噛ませ犬くんは救急車で病院へと運ばれ、光くんはその場で軽く事情聴取を受けた後、後日警察へ行くこととなった。

 その後警察へ行き取調べ室でいくらか話した結果、彼がおこした事件は正式に傷害事件とされた。噛ませ犬くんの両親が警察へ訴え出たせいである。これまたテンプレートな……。

 光くんは「不良みたいなしょーもない奴の親なんだから、大抵がしょーもないんスよ」と、悟ったような困ったような顔で言っていたが、納得しがたいものがある。

 彼は夏休みの間に少しだけ少年鑑別所に送られ、その後家庭裁判所で裁判を受け、現在は保護観察の身である。このあたりはあまり詳しく聞けなかったので、間違いがあったら申し訳ないが。

 それにしてもずいぶんと理不尽である。

 そもそもの発端は、不良少女のふかしていたタバコである。学内でタバコを吸っていた事実を、教師が知らぬわけがあるまい。なんせ授業中の教室に煙が流れ込んでくるほどなのだ。

 そして不良少年の一件にしても、光くんは自分から手を出したわけではない。身にかかる火の粉を振り払っただけである。

 光くんは「まぁオレもやりすぎたんで」と言っていたが、私は彼の肩を持つ。

 光くんは自分が嫌だと思うことについて相手に伝え、それをやめさせようとしたのだ。それも正々堂々と、面と向かってである。言葉遣いがよかったとは言えぬが、立ち向かう姿勢は重要だ。

 教師は大人だ。生活がある。職場での立場が悪くなれば、もしかしたらどこかに飛ばされるかもしれない。不良生徒に手出しできない彼らを、責めることはできない。

 学校というのは内向きに閉じた箱庭みたいなもので、中でなにが起きようとも外に知れ渡ることはあまりないのだ。

 表面上は穏便に、平和であるかのように日々は過ぎる。

 光くんはそこに自ら石を投げたのだ。ドロップアウトしているわけでなく、日々普通に授業に出て、放課後は部活動をしている、彼が。事件を起こせば、柔道で出場停止にされてしまうかもしれない、彼が。

 そういう生徒を守れないなら、教師とはいったいなんなのだろうか。ただ勉強を教えるだけなら、学校に通う必要なんてない。塾でいいのだ。大人のいう学校でしか学べないこととは、いったいなんなのだろう。

 私はまだ社会に出ていないから、社会のことがよくわからないだけだろうか。

 だけど、目の前で堂々と戦っている少年一人を助けてあげられないなら、社会とはとてもつまらないところだ。

 それだから年端もいかない少年に、「不良の親も、センセイも、しょーがないものなんスよ」なんて言葉を言わせてしまう。

 私は不良生徒たちが、卒業した後どうなるのか分からぬ。むしろ私自身、卒業した後どうなるのか分からぬ。

 もし無事に社会に出れたとしても、光くんの話を忘れないようにしようと思う。社会がなにもかも悪いというのではないが。

 少年少女たちは、時に驚くほど純粋だ。私は彼らのその光を愛す。