貴様に会う時を待ちわび、震える我が身の喜びよ

 いきなり訪れた冬の寒さに面食らっています、こんにちは。

 私は四季の中で冬が一番好きだ。冷たい北風に吹かれながら食べる肉まんほどぬくもりを感じさせてくれるものはないし、ふくふくと湯気のたつ鍋は体を内側から温めてくれる。冷え性で氷のようになった手を誰かの首筋にあててイタズラをしたり、握り合って暖めることができるのもはずせない。

 それに何より、しんと冷えた空気の中で柔らかく自分を包んでくれる布団にもぐりこみ、静かな寂しさの中に身をひたすのは、とても幸せなことだ。

 しかし残念ながら私の場合の冬とは、深夜の二時までダラダラ夜更かしをして、小腹が空いて近所のコンビニまで行って肉まんを買いあさったりするような毎日のことだ。もぐもぐと肉まんほおばりながら家に帰り、「さぶい、さみしい」と思いながら布団に入り、次の日の昼過ぎに目覚めて「さぶい、布団から出たくない」とブルブル震えながら引きこもっているので、風情も何もない。

 こんな毎日でも私は幸せです。幸せなんです。幸せだといっていないと何か見えてはいけない真実にぶち当たりそうだから何度でも言う。幸せだったら幸せだ。

 震えるといえば、某歌手の某曲に、「会いたくて会いたくて震える」というフレーズがあるが、私にはいまだにその心が分からぬ。

 「会いたくて涙する」や、「会いたくて苦しむ」なら分かる。しかし震えるって、いったいどういう状況なのだろうか。彼が居ないと痙攣してしまう病?

 特に会いたくて会いたい相手が居るわけではないが、この問題について勝手に悩める子羊になっていたところ、友人が私のために助け舟を出してくれた。

 「寒いんじゃないですかね」

 投げやり!助け舟が投げやり!そんなんじゃ助け舟は私のところに届かずに沈んでしまうよ!

 「たぶんその人は男を待っているんですよ」

 「ほうほう」

 「しかし寒い中で何時間待っても、男はこない」

 「それは切ない」

 「それでも女は、男を待つんです。会いたいから。つまりその歌詞とは、『会いたくて会いたくて(寒さで体が)震える(けど待ってる)』という歌なんですよ!」

 この発想はなかった……!

 「そ、そうだったのか!健気な女の子だね!」

 「健気?私だったら、こんなストーカーじみた執念深さを見せる女はお断りですけどね」

 「なんでそういうこというん」

 「幸せなカップルとか健気ぶった女とか、みんな滅べばいんですよ」

 「なんでそういうこというん!」

 彼女の心の闇はどうやら深いようだ。

 ちなみにこの件に対する私の答えは、武者震いである。

 彼女は長く付き合っている男との、恋人なんだか友達なんだか分からない関係に嫌気がさしていた。

 「今日こそはきゃつと決着をつけねばならぬ」

 彼女はそのように、胸のうちに熱い気持ちをたぎらせていた。しかしそんな固い決意とは裏腹に、おびえと不安もあった。

 「きゃつと今までのように付き合うことができるのは今日限り。良きにせよ悪きにせよ、きゃつとの関係は今日で終わる」

 胸を奥から奮わせる期待や昂揚と、心胆寒からしめる冷たい不安にはさまれ、彼女の体は震えるのだった。

 うん、なかなかいいと思う。告白前の体の震えを「武者震い」と呼ぶのは悪くないんじゃなかろうか。

 唯一の難点は、この言葉はちょっとばかしロマンチックではないことだ。しかしいたし方あるまい、色恋沙汰は真剣なもの。まさしく真剣を扱うが如し緊張感のあるこの語を当てはめるのも、悪くはないであろう。

 私と真剣勝負をしてくれる人、お待ちしてます!