物言わぬ君たちの心が知りたい

 先日ついに、新しいパソコンを買ってしまった。私がほしいものの中で、最大級に高いものである。6桁もお金を払うなんて、我ながら恐れ多いことをしてしまったものだ…。

 なんとなく恐れ多いという言葉の用法があっていない気がするが、まぁいい。

 ちなみに私が次に欲しいものは、本棚である。小説やマンガは気がついたら増えているので、もともとあった本棚一号からはとうの昔にあふれ出している。

 増やしている記憶がないのに勝手に増えているので、雑草やキノコの仲間なのかもしれぬ。

 こうも増殖されてはかなわないので、日曜大工が得意で、本棚くらいならちょちょいのちょいで作れる殿方があらわれないかしら(願望)。でも手作りの本棚よりは、手前の棚がスライドしたり、ローラーがついていて移動が自由な本棚のほうが便利でいいわね。

 こんなことを言っているから恋人ができないのだ。

 ちなみのちなみに、さらにその次にほしいものは本である。新しい本棚を買ったところで、すぐにまたいっぱいにしてしまうに違いない。

 かくなる上は、買った分だけ売ることで循環のサイクルを生み出すべきだ。リサイクルがはやっているこのご時世、私も流行に乗らぬわけにはいかぬ。

 ああ、でもそんな……これまで私を楽しませ、幸せにしてくれた本たちを売るなんて……!!

 茶番はここまでにしよう。なんの話だったか。

 そうそう、我が家に新しいパソコンが来たという話だ。これまで使っていたノートパソコンは、普通に使う分には問題なかった。

 しかし私はネットゲームが趣味だ。そしてネットゲームというのはたいていの場合、高いスペックを要求してくる。特に最近は映像が美麗であったり、アクションが派手であったりするので、なおさらだ。

 無理やり大きなデータを飲み込され、激しい熱と悲鳴を上げる彼に感じる不憫さが限界を越えた(ついでに、まともにプレイできないことへの我慢も限界を越えた)ので、この度ついに新しいパソコンを購入する運びとなったのである。

 今まで使っていたノートパソコンは大学で文書を作ったりすることに用いることにして、新しいパソコンはデスクトップにした。

 これで処理落ち(ゲームの画面をパソコンが処理しきれず、コマ送りのようになること)の悪夢から逃れられる。希望に満ちた気持ちで注文ボタンを押したのが十日ほど前の出来事である。

 たかだか7日程度。しかし私とっては狂おしいほど長く感じられた7日がすぎた。よくわからない機器の名称や、確実に家で待機していたにもかかわらずなぜか不在表をいれていった佐○急便の妨害にもめげず、私はついに新しいパソコンを手に入れた。

 そしてその数時間後。私は彼に、「カン太」と名づけることになる。なぜならこいつが、とんでもない聞かん坊だったからだ。

 我が家は無線環境のため、彼に無線の子機を挿入してインターネットへの接続を試みる私をあざ笑うかのように、彼はエラーを吐いた。吐きまくった。

 ネットワークが見つからないといっては、途中まで読み込んでいた動画を放棄した。なにか不具合があると抜かしては、ダウンロード中のファイルにバツ印をつけた。

 なにが気に食わないのか私にはわからないので、彼の黒々とした体をなでて、私は彼のご機嫌をとった(比喩ではない、弱り果ててほんとうに撫でた。錯乱していたに違いない)。

 なんとか繋がるようにトライアンドエラーを繰り返したが、彼は私のトライに対してエラーを吐き出す。

 ちくしょう!そんなに私のことが嫌いかよ!

 どうにもこうにも繋がらないことに困った私は、ついに翌日、我が家の回線を牛耳る元締めへ連絡をした。

 「もしもし、すみません。ちょっとうちに来たカン太……いえ、パソコンがネットワークにつながってくれなくてですね……はい、はい、そうなんです。あ、ありがとうございます!」

 ピンコーン。

 ドアのベルの音とともに、柔和な微笑みを携えた男性が我が家へ上がる。

 「こちらのパソコンですか?」

 「はい、そうです」

 「あー、たぶんこの位置だと電波が弱いんですね。アンテナつきの子機をお貸ししますので、これを使ってみてください」

 そういって彼が与えてくれたのは、なにやら四角いコンパクトのような形をした通信機器だった。

 それを彼に挿入すると、あら不思議!

 あんなにエラーを吐きまくっていたカン太は、ネットの海とその体を繋げ、ついにおとなしくファイルをダウンロードしてくれるようになったのだ。

 というようなもろもろを乗り越えて、私は今この記事を書いている。

 機械オンチというわけではないが、私はあまりメカは得意ではないのだ。家電量販店などにいくと、何がどうなのかイマイチよくわからなくて混乱する。気がついたらパン生地を自動で発酵してくれる機械を見ていたりする。

 あの機械がどのようなメカニズムでパンの生地をこね、発酵させてくれるのか気になるが、おそらく私が彼を使うことはないだろう。

 もしも万が一、私が家庭に入ることに成功したら、購入してみたい品である。

 ちなみに前のノートパソコンの名前は亮汰だ。多少の無茶をしても言うことを聞いてくれ、ホモ画像を読み込まされても文句ひとつ言わず、もくもくと働き続けてくれた。

 従順でおとなしい感じがよく出たいい名前だと、我ながら気に入っている。

 今後はカン太と仲良くすることになりそうだが、彼も働き者だしまだまだ現役だ。唯一の問題は私自身が彼らのスペックをいかしきれていないことだ。

 パソコンのスペックにも劣る自分の存在を思いながら、「だけどパソコンは妄想できないし!」と言い訳をしてみる。

 「この人間、まじでしょうもねぇな。俺たちひどいところにきちまったようだぜ」

 「まぁ俺たちの仕事はおとなしく人間に使われることさ。どう使われても文句は言えない。大事にされることを祈ろうぜ」

 「そうだな」

 なんて彼らにあきれられている気がする。だ、大事にはするからね!だから私とネットの海とのつながりを断ち切らないで、お願いします!

 今夜の月は明るいなぁ。明るすぎて、なんだか心にしみるぜコンチキショー。