肉と野菜とイケメン店員

 先日、ちまたで噂の「サムギョプサルの店員には、イケメンしかいない」という都市伝説を確かめるべく、友人とサムギョプサルを食べにいった。ちなみにちまたとは、私と友人の間でという意味だ。

 この都市伝説が本当ならば、サムギョプサルの店とはイケメンを眺めながら肉を食らい、酒を飲むことができる場所ということである。それってなんて酒池肉林?

 私たちがいったサムギョプサルのお店は、水晶で肉を焼くことで有名ならしい。中に入ってみたらコンロの上に水晶が並んでいた。そんな前情報はぜんぜん聞いていなかったので、

「すごい!コンロの上に氷が出てる!なんで!?」

と思わず友人に聞いてしまった。バカ丸出しである。

 だって水晶って氷に似てるんだもの!

 私たちはみんなサムギョプサル初体験だったので、店員さんが来て肉を水晶の上に並べたりしながら食べ方を説明してくれた。都市伝説通りに店員さんはイケメンで、私は目の前に並べられた肉に涎を垂らしながら。コクコクと頷いて聞いていた。待てをされた犬のようである。

肉と言うのは、切り出したままのような長い豚肉である。これにざっくりと火を通し、ハサミで切ってさらに焼いてから食べるという趣向ならしい。なかなかワイルドだ。

 肉のわきには野菜といっしょにキムチがのせられ、「いっしょに食べるとおいしいですが、真ん中で焼くと焦げるので気を付けてくださいね」とのことだった。

 それからコンロに火をつけてくれたのだが、スイッチが私の前にあったため、身を乗り出してくる彼。

 非常に恥ずかしながら、思わず匂いを嗅いでしまいました。肉よりもいい匂いがしました。

 その後酒を頼み、食っては飲み、食っては飲み。

 豚肉とキムチをサンチュで包み、コチュジャンにつけて食べる。辛すぎないマイルドな味わいで、非常に美味であった。

 キムチとコチュジャンの辛味が食欲を促進し、ついでに体温と舌のまわる速度もあげてくれて、汗をかきながら喋るわ食べるわ。店の中で一番騒がしかったかもしれない、申し訳ない。

 酔いが回った中ごろ、「恋人と二人きりの時に、どんなことを話すか」という話題になった。その場に居たのは六人。うち一人が現在交際中。四人は元彼、元彼女もち。残りは誰だ。

 賢明な読者のみなさんならお分かりになることであろう。

 実際にどんなことを話しているかまでは、みんな(私を除く)覚えていないようだったが、男性と女性では意見に開きが出ることを発見した。

 まず男は、二人でいっしょに居られれば会話のあるなしはあまり気にしない傾向にあるようだ。

 そのためか、「二人で居る時に何をする?」という質問にも、反応が悪い。ぼちぼち喋ったりしつつ、なんとなく部屋でダラダラしたり、ご飯を食べたりしたいらしい。つまらぬ。

 もっとアダルト且つバイオレンスな欲求を、さらけ出してほしいものだ。

 それに対して女性は、会話を重視しているらしい。何気ない日常で起こったことや、気になったこと、欲しいものなど話題は多岐に渡る。

 せっかく二人きりなのだから、積極的にコミュニケーションをとりたいと言っていた。

 もちろんここに書いたことが全てではなく、これに当てはまらない男女もいるだろう。なので、あくまでも傾向があるという程度に思っておいてほしい。

 話題が進むと、友人の男の子がこんなことを言い出した。

「そういえばオレ、前の彼女と別れる時に、『私といっしょに居て楽しいと思っているようには見えない』って言われた」

 話を聞いてみると、やはり彼は二人きりで居る時もあまり会話は重視せず、静かな中でいっしょに過ごしたかったらしい。それが彼女にとっては不安であり不満でもあったのだ。

 男女の関係とはなんとも度し難いものだ。お互いに好きあっていっしょにいるのに、ほんの少しの擦れ違いが大事件になったりする。

 昔は「どうして仲良くできないのだろう」と思っていたが、今はなんとなく分かる。

 相手の何気ない言動や小さな仕草に過敏に反応してしまうのは、きっと相手を思っているからなのだ。相手のことを気にしているから、些細なことで嫉妬するし、些細なことで打ちのめされる。

 自分にとって大切なものだから、感情を抑えられない。

 ちなみに私は人と二人きりになると、ものすごく饒舌になるか話題が見つからなくて気まずい思いをするかのどちらかなので、二人きりという状況が苦手である。

 もしも相手に気があれば気おくれしてしまうし、興味がないなら会話も弾まない。二人きりで平気なのは、仲の良い友達くらいだ。

 なにしろ私は、相手に気遣いをしているのがバレないように気を遣いつつ、実は相手に気遣いがバレないように気を遣っているのに気付かれていて、逆に気を遣わせていないかと気を遣ってしまうほどの気にしいなのだ。

 我ながら思考回路が複雑すぎる上、堂々巡りをして結局気を遣っているのだから悲しい。

 これだけ二人きりが苦手なのだから、私に恋人ができないのは神様が思いやってくれているに違いない。

 こんなくだらない話をしている間にも、イケメンの店員さんは食べ物と酒をどんどん持ってきてくれる(もちろん私たちがどんどん頼んでいるからだ)。

 食べ物の焼けるいい匂いの中、肉も野菜も胃袋におさまり、非常に幸せな夜であった。

 この夜私は、恋人なんていなくても毎日を楽しく暮せればそれでいいなぁと感じた。

 きっとみんな毎日をさらに楽しくするために恋人などを求めるのだろうけど、私にはどうやらそこまでの気概はないようだ。

 求めていないと言えばウソになるが、ものすごく求めているかと聞かれるとそうでもない。

 いればいいなぁという程度のものだ。

 恋愛関係というのはそれなりに真剣なものなようなので、「いればいいなぁ」程度だとうまくやっていけないような気もする。二人きりも苦手だし。

 友達が居て、おいしいご飯とお酒があって、気持ちよく大声で笑って楽しく騒いで、そんな日常がすごく好きだ。

 井の中の蛙大海を知らず。されど空の青さを知る。

 このことわざの通りに、せまい世界でも美しく青い空を仰ぎながら生きていけるのなら、それは十分に幸せなことなのだ。