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片道切符でかまわない

 近ごろ、しょっちゅう写真を撮るようになった。近ごろと言っても、去年の暮れあたりからである。

 なんだか、無性に「今」を保存しておきたくなったのだ。年かもしれない。実際の年齢と中身の年齢は、比例しないのだ。中身だけどんどんとおっさんになっていく私。トホホ

である。

 私はこの瞬間に、こうして文字を書きつづっている(正確にはパソコンのキーボードを打っているので、打ちつづっている)が、この文を書いている「私」は数秒前までの「私」である。「今の私」と書いたところで、それを書いた時の私は、今の私とは違うのだ。

 あぁ、なんだかこんがらがってきた。さっきまでわかっているつもりだった「今」とは、実はどうにもとらえどころのないものだったのだ。

 なんてことを考えたり考えなかったりしながら、いろんなところで写真を撮る。とりあえず撮る。どこかに遊びに行っている時や、飲み会の時が多い。

 そして私には写真のセンスがないのか、大抵の場合ブレている。なんだろう、落ち着きがないのだろうか。

 一度など、「はい、チーズ!」と叫んでピントをバッチリ合わせていたにも関わらず、できあがった写真はブレていた。くそう。私の携帯くんのせいにしたいが、おそらく彼のせいではない。

 これは推測だが、きっと私の筋力がたりなくて、ピントを合わせていてもそれを支え続けることができないのだ。ブルブルと震える私の細腕。二の腕にさえ肉もなく、なんとも貧弱なものよ…。

 おかしいな、私の瞳のピントも合わなくなってきたぞ。誰だよレンズに水を流し込んだのは。

 写真といえば、近所の公園で気になる二人組を見かけた。

 片方はファンキーなファッションに身を包んだ、「兄貴」とでも呼ばれていそうな風貌の男である。遠目だったので自信がないが、年は27、8だと予想する。

 もう片方は、スーツ姿の若くて頼りなげなあんちゃんだ。体つきはそれなりにがっしりとしているのだが、どこかおどおどとしていた。「体は大きいけど臆病そう」なんて、どこかの漫画から抜け出してきたようである。

 さて、この二人だが、なぜか兄貴の方は三脚つきのカメラを準備していた。そしてその横のベンチで、これでもかといわんばかりにガックリと肩を落とすあんちゃん。

 手際よく三脚を組み立て、カメラをいじる兄貴と、しょんぼり顔の青年とは、なんとも不思議な組み合わせである。

 しかし状況的に、彼らがこれから撮影をすることは確実である。一体なんの撮影なのであろうか。

 ははーん!わかったぞ!

 青年はきっとカメラメーカーに勤めていて、仕事でなにがしかのミスをやらかしてしまい、その失敗をフォローするために、いろいろなところへ営業に回っているのだ。

 爽やかな笑顔と人懐こい性格をいかして、なんとか契約をとろうと苦心する日々。

 彼がそんな日々の中で、偶然訪れてしまったところは、男性の写真集を専門に作っている会社だった。

 なんとか契約をとろうと食い下がった彼は、社員からとある条件を突きつけられる。

 「君がうちのモデルとして、何枚か写真をとらせてくれるなら考えるよ」

 もちろんそんなことは露ほども考えていなかった青年は、途方に暮れる。

 俺の写真?でもそれって、写真集に使われたり、雑誌にするわけで…つまりホモの人に使われたり(意味深)するかもしれないわけで…。

 そんな彼に、例の兄貴がそっと声をかけたのだ。

 「俺はお前を撮りたい。お前は契約をとれるし、俺は撮りたいモンを撮れる。ウィンウィンの関係っちゅーやっちゃ。どや?」

 その言葉で、彼は覚悟を決めたのだった。

 というわけで、彼はあれから公園で色んな写真をとられ、人気のないところで色んな写真をとられ、夜は密室で色んな写真をとられ、なんなら動画もとられたに違いない。

 無事に契約はとれたものの、契約をとるために清かったはずの心と体をささげてしまった青年。彼の心には、もう二度とこんなことはしたくないと思う反面、「もう一度オレの全てを撮ってほしい」という気持ちが芽生えてしまうのだ。

 というようなことを考えながら自転車をこいでいたら、通り雨に降られて大変な目に遭った。神様は全てお見通しならしい。

 しかし神よ!私はこれまで恋もせず(できず)、恋人も作らず(作れず)、清く正しく(体だけは)生きてきたのです!どうか道端の男二人を見ながら、グシシ、と笑うくらいのことは許してくださらぬか!

 きっとこれで神様は許してくれるはずだ。もし神様が赦してくれなかったら、バレないように妄想しよう。

 私はいつだって胸を張って言うのだ。後悔はしている、反省はしていない!

 妄想は人生に潤いを与えてくれるというのが私の信条だが、最近は妄想が潤いすぎて、むしろ現実が干上がってしまいそうな勢いである。脳内で人間が次々にホモに変換されていく。

 もしも世の中に「脳内自動ホモ変換機能選手権」があったら、きっと私はグランプリを獲れることだろう。ひょっとしたら永世名人に着任できるかもしれぬ。

 それと同時に、現実から目を背ける速度を競う選手権でも、きっと私は優勝できるだろう。この二つの能力さえあれば、私はいつでもどこでも自由でいることができるのだ。

 しかし自由には責任がつきものというのは、世の常である。精神世界で自由になった私は、現実世界をかなぐり捨ててるだけなので、結局のところ現実世界に帰るしかない。嫌だよう、帰りたくないよう。

 はやくどこぞの博士が、「二次元切符」とか、「夢の国製造機」とか作ってくれないだろうか。片道切符でいいので、完成報告を待ちます。

 私の妄想力が必要なら、いくらでも献上するので、ぜひとも頑張ってほしい。