雲散霧消する青春時代

 ふと「そうめんが食べたい」と思い、後輩とそうめん会を催した私。個性豊かな後輩たちは、そうめんにじゃこ天やらきゅうりやらを入れたがって、さぁ大変!

てんやわんやの末に出来上がったそうめんは、とってもおいしくて、私たちは満腹になったのでした。

以上が前回までのまとめである。え、適当じゃないかって?それなら、昨日のページも読めばいいじゃない!

 満腹になった私たちは、今回のもう一つの目的を果たすことにした。それは「たらふく食った後に、ゲームをしよう」というものである。

 ちなみにこれも発案は私だ。みんなでゲームをすれば手っ取り早く仲も深まるし、会話が滞ったとしても、BGMが間を持たせてくれるだろうという算段なのだ。ククク、自分の策士っぷりが末恐ろしいぜ…。

 というわけで、いのっちの家にあるテレビ(学生の家にあるものとは思えないほどでかい。普通の家庭ならリビングにあってもおかしくない)にPS3をつなぎ、アイドル君がもってきてくれたソフトを飲みこませる。

 今回のゲームは「Call of Duty」である。

 ご存じない方のために説明すると、このゲームはいわゆるガンシューティング系である。

一人称視点で自分のキャラクターを操り、敵軍の兵士を倒していくゲームだ。なんでも第二次世界大戦がモチーフになっているらしい。ただの平凡な学生である私がプレイするには、なかなか壮大なテーマである。

 とはいえ、結局することは自分のキャラクターを操作して敵を倒すだけだ。さっそくコントローラーを握りしめる。

 「えっ…と…これ、どこのキーがなんなの?」

 握りしめたところで、操作方法がまったく分からないことに気付く私。後先考えないこと、火のごとし。

 隣に座っていたアイドル君が、丁寧に扱いを教えてくれる。

 「あ、左のこのボタンで構えて…んで、R1で撃てます」

 「………(ガチャガチャとコントローラーをいじくる)」

 ドバババババッ

 「あー、弾ちゃんと出ましたね。あとは左スティックで移動で、右スティックで視点移動です。じゃあいっちゃってください」

 「おう!いっちゃってくるぜ!」

 いっちゃってきました。誰一人倒すことなく、死を献上し続けました。

 「まぁ初めはそんなもんですよ」と励ましてくれるアイドル。かっこいいとこ見せたかったのだが、神にはそんな下心がお見通しであったらしい。神罰てき面である。くうう!

 コントローラーを持ち主であるアイドルに渡すと、見事な手さばきで敵をバッタバッタとなぎ倒していました。かわいいだけじゃなく、クールな一面まであるとは…末恐ろしい子

 おまけに敵を倒すたびに、「あー死にましたね」なんて楽しそうに言うのだ。思わぬ攻撃性を目撃してしまった。もしかしてS?

 ところで、ここまですっかり忘れていたのだが、私の三半規管はとても貧弱だ。

 どのくらい貧弱かというと、ブランコにしばらく乗ってみたら降りた後に気持ちが悪くなり、こけて鉄棒に頭をぶつけたことがあるくらいである。

 こんなお粗末な三半規管を持つ人間が、3Dでグルグルと画面が動くようなゲームをすればどうなるか、勘のいい読者の方ならお分かりだろう。

 「あの、先輩だいじょうぶですか…?」

 「だいじょばない。これはあかんー…(地の底から響くような声)」

 酒が入っていたこともあって、見事に酔いました。

 「三半規管が弱いなら、初めから気をつけとけよ!」という声が聞こえそうだが、私だって酔いたくて酔ったわけではない。

 ただ、楽しくてすっかり忘れていただけなのだ。忘れっぽさも筋金入りである。

 グロッキー状態で床に転がる私を後目に、ゲームで親睦を深める後輩たち。

 こんなはずではなかったと思うも虚しく、私はさながら使い古した後の濡れそぼった雑巾のように、床に広がっていましたとさ。

 しかしもちろんこれで終わる私ではない。後輩への愛の力で(どんな力だ)30分後くらいには不死鳥のごとき復活をとげた。

 とはいえ続けて3Dのゲームをしようものなら、再び酔ってしまって次は帰ってこられないだろうことがわかっていたので、別のゲームをすることにした。

 それが「大乱闘スマッシュブラザーズX」である。

 こっちはさすがに説明の必要はないと思うが、念のため説明しよう。

 これは任天堂のゲームで、過去の任天堂の作品にでてきたキャラクターたちが、相手を舞台から叩き落とすゲームである。

 む。この言い方だと、まるで彼らがそれぞれの覇権をめぐって、骨肉の争いをしているようだ。まぁ間違ってないか(適当)。

 このゲームは最大四人で対戦できるゲームであり、私たちもちょうど四人だったので、全員そろってレッツバトルとあいなった。

 結果から言いましょう。負けました。

 後輩たちは強かった…兄弟や友達相手に研鑽を積み重ねてきていたようです。友達のいない子供時代を過ごしてきたことが、こんなところで仇になるとは。

しかしまぁ、負けてても負けてるなりに楽しかったということを、言い添えておこう。決して負け惜しみではございませぬ。

 みんなでやるゲームは、どれくらい勝ったか負けたかとか全部ひっくるめて楽しめるところが素晴らしい。

 勝負事となるとついムキになってしまいがちだが、みんなでやる楽しさはそことは別にある。私はそういうことに気付くのも、ずいぶん遅くなってしまった。

 後輩たちの笑顔は、最高のごちそうです。たとえ負けても。

 とはいえ負けっぱなしは悔しいので、ひそかに特訓を積み重ねることにしよう。まずは持ちキャラを決めてだな。

 いつか雪辱を果たす日がくることを、願ってやまぬ。でも私運動とかアクションゲームとか、苦手だからなぁ…。

 そんなこんなで雑談をしながらゲームをするうちに、話題は「誰が一番ゲスか」という方向へ。

 私はこの間、必死でコントローラーをガチャガチャやっていたので、なぜそんな話題になったのかはわからぬ。ピーチ姫のヒップアタックのような必殺技をかわされて、舞台から退場している間に、そんな話になっておった。

 「いのっちがマジでゲスなんですよ!こいつおとなしそうな顔して酷いんですよ!?」

 これはアイドル君の談である。にわかに慌てるいのっちを無視して、「ふむふむ、いったいどうしてだい?」と続きを促す。ゲスな話は大好物だ。

 アイドル君はおもむろに話し始めた。

 「…ペロペロってあるじゃないですか?」

 もうこの時点で私のテンションはうなぎのぼりである。いや、もはや鯉のぼりと言ってもいいかもしれない。

 猛烈に下り落ちる滝をものともせず、うろこを引きはがされながらも上り詰め、ついには龍となって空に消えてしまいそうだ。

 「ペロペロ」という音をアイドル君が発したことにもときめいたし、それを言う前に少しだけ躊躇するのがとてもキュートである。恥ずかしいなら言わなければいいのに。

 「あの、先輩ペロペロって、意味、わかります?あー、えっと…好きなキャラクターとか?のことを、まぁ、舐めたいくらい、って、いうか、ペロペロしたいくらい、好き、みたいな、意味なんですけど…」

 とつとつと「ペロペロ」の意味について語ってくれるアイドル君。ちょっと照れているのが最高にかわいい。文字では伝えられないが、照れくさくてところどころ音程が上がってしまっていて、聞いているこっちまで照れが伝わってくるようであった。

伏し目がちになっているのも、たいへん点数が高い。私が先生なら間違いなく満点はなまるをあげているところだ。

 おまけにこれらの全てを天然で行っているというのだから、アイドル君はほんとうによくできた後輩です。私は昇天しそうになりながら続きを拝聴する。

 「そしたらこいつ、『どこを?』とか聞いてくるんですよ!マジでありえなくないですか!」

 うんうん、そうだね、マジでありえないですね。

 ただまぁ、私も君が好きなキャラクターのどこをペロペロしたいかについては、とっても興味があるかな!それはもう興味津々かな!

 きっといのっちも同じ気持ちであったに違いないと、勝手に仲間意識を持つ私。彼からしたら非常に迷惑かもしれない。

 それからはゲスな話や恋の話を、似たような感じで萌えたり感心したり、失った若さを思い知らされたりしながら聞いていた。

 彼らの話を聞いていると、私の青春はどこにいってしまったのか不思議になる。ゴミ箱に捨てたわけでも、部屋におきっぱなしにしていたわけでもないのに、気が付けば消えてしまっていた青春。

 さながら朝方の靄のように、日が昇るころには跡形もなく消えていて、あったかどうかさえ定かではなくなってしまう。実はすでに「私には青春はなかったんじゃなかったっけ?」という気持ちである。

 誰かの青春は分かりやすくて「これが春か」と確信するのに、家に帰って一晩寝るとあっという間にあやふやであいまいなものに戻ってしまう。

 本人の心の内には残らないくせに、ちょっと外を歩けばそこらじゅうにある。そんな自分の中にはあり得ないのにありふれた、矛盾したものが青春かもしれぬ。

 集まったのは夕方だったのだが、気が付けば夜中の四時である。もはや朝方と言ってもいい。

 さすがに後輩の家に長居しすぎかなとおいとましようとしたら、彼らはそろってマンションの下まで送ってくれました。とてもかわいい。

 もしかしたら私は、今が青春真っ盛りかもしれないなぁと、明らむ空を見上げながら思った。