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男四人の台所

 薄く褐色に染まったそれを口に含む。それは滑らかに舌の上を滑り、私の欲望を少しずつ満たしていってくれる。

 たった一度では足りなくて、なんどもなんども繰り返す。

 何人もの男がそれを囲み、欲望がみちた時に誰からともなく言葉がこぼれた。

 「はーもうお腹いっぱい!」

 というわけで(どういうわけだ)、後輩のいのっちの家にお邪魔して、そうめんを食べる会をしてきました。やっぱり夏といえばそうめんですたい。

 官能小説的に始めてみましたが、出だしから滑りちらかしていること請け合いです。つるつると喉を滑るそうめんよりも滑っている。恥ずかしい。ああいうお話を書いていらっしゃる人たちって、きっとものすごく語彙が豊富で頭がいいのだ。

 今回のそうめん会は、前日に「あ、そうめんが食べたい」と思いついた私が、適当に声をかけてもよおしたものである。ノリよく付き合ってくれた後輩に感謝だ。

そして、なんと!そこには我がアイドルも参戦してくれた!

私からは声をかけなかったが、後輩が呼んでくれたのだ。グッジョブだ後輩、君を神と呼ぼう。

 ちなみにメンバー構成は、先輩である私一人に、後輩三人である。若いオーラを吸い取って私も若返ろうと思ったのだが、逆に年寄りオーラを後輩に与えてしまったのではないかと心配している。

1:3でもひけをとらない私の枯れたオーラは、もはや亡霊の放つ怨嗟の念と大差ないのではないかと思う。

 しかしそんなことには負けず、まずはスーパーでお買いもの。そうめんには薬味が不可欠なのである。

 とはいえ薬味といっても何をいれていいのかわからず、後輩たちと相談する。

 「じゃこ天が食べたいです」という希望が、愛媛出身の後輩であるともくんから出たので、まずはじゃこ天を探しに店内をうろつく。じゃこ天は愛媛の名物らしいのだが、私の地元では実に肩身がせまそうだった。ちくわや豆腐に挟まれて、一列しかおかれていなかったのだ。

 ここぞとばかりに憤慨するともくん。

 「なんでじゃこ天がこんなに少ないんですか、一つしかないじゃないですか!ていうか一列って…せめて二列でしょう!見つけづらいじゃないですか!」

 うーむむ、君の怒りがもっともなのかどうなのか、私には判断しかねるのだよ。

 じゃこ天に対する熱い議論を交わすいのっちとともくん(いのっちも愛媛出身)。なぜか私の居る部活には愛媛出身者が多い。

 とりあえずじゃこ天と、ついでにちくわもカゴにいれておく。

 我がアイドルの希望も聞かねばなるまいと、「そうめんといえば何?」と聞いてみたところ、「ネギと生姜とわさびじゃないですかね」とものすごく当たり前な返答をいただいた。言われるがままに生姜とわさびをカゴに追加。

 ネギをとりに野菜ゾーンに向かう途中で、いのっちにもいれたいものを聞く。

 「えーっと…きゅうりとか、錦糸卵とか?ですかね?」

 なるほど、確かに入っていてもおかしくはない。ネギのついでにきゅうりもカゴにいれる。

 卵を探して店内を徘徊する私たち。スーパーというのは店によって陳列に違いがあるので、目当てのものが見つけづらい。

 お菓子やジュース、野菜などはすぐに分かるのだが、卵はどこにあるのかほんとうに分かりづらいと思う。なぜ卵だけはあっちにあったりこっちにあったりするのだろうか。

 フラフラと歩き回っている最中に、アイドルが不意に言った。

 「あれ、でもこれ冷やし中華じゃね?」

 そ、そうじゃん!これじゃ冷やし中華じゃん!

 どこかで聞いたことがあるようなトッピングに騙されていたが、完全に冷やし中華の具材である。あとはハムでもいれれば完璧だ。

 しかしいのっちは果敢にも反論を試みる。

 「いや、愛媛ではけっこうこういうの入れるんだって」

 「えーそうなの?」

 「そうだって。な、ともくん?」

 「いや、俺んとこはいれなかったけど。お前んちだけじゃね?」

 まさかの裏切りである。まぁそうめんに何をいれたから悪いということもないので、そのまま卵を探す。せっかくなので、豪華なそうめんにするのも悪くはないだろう。

 無事に卵をみつけることができたので、酒とお菓子も適当にカゴに突っ込んで会計をすませる。

 袋もちますよーと声をかけてくれる後輩たち。あまりにもかわいすぎる。先輩冥利に尽きるとはこのことだ。

 そしてネギの突き出した袋を下げて歩くアイドルの後姿は、まるで主婦のようであった。

 彼はそれなりに背が高く、別に仕草が女っぽいというわけでもないのだが、私の目には「今夜はお鍋よ」と言わんばかりの後姿にうつる。

 嫁に欲しいものである。結婚しよ。

 無事に材料をいのっちの家へ運び込み、調理を開始する私たち。

 しかし男しかいない上に、こんなにたくさんの具材をそうめんにいれるのは初めてである。段取りに手間取ってしまう。

 「とりあえずネギ切りますか?」とアイドルが言ったので、彼にネギを渡す。すると意外そうな顔をする彼。

 「えっ、俺?」

 「ネギの入った袋を持ったお前が、俺には主婦に見えていた。お前ならできる」

 いのっちの発言が、少し前に私が思ったことと完全にかぶっている。も、もしかしてお前もアイドルを嫁に欲しいと思っているのか!?やらんぞ!!お前にはやらん!!

 と思ったのだが、やるやらない以前に、彼は私のものではない。非常に残念、かつ悔しい。地獄の窯を爪でひっかくような音で歯ぎしりしてしまいそうだ。

 しかし、たどたどしくネギを切るアイドルの姿が非常にかわいかったので、そんな悔しさは一瞬で吹き飛びました。

 その後ろ姿は、「息子のために、休日になれない台所に立つお父さん」であった。数分の間に主婦にされたりお父さんにされたり、アイドルも大変だなぁ(他人事)。

 茶化されて笑いながらネギを切る姿がかわいかったので、みんなで写真もとりました。家宝にしよう。

 あまり笑ってばかりもいられないので、横でそうめんを茹でに入る。とりあえずお湯を沸かしたので、そうめんを投入しようとする私。

 しかしここで決定的なミスを犯してしまう。

 そうめんは大体4~5把がテープで留められている。つまり湯の中に投入するには、それをはがなければならない。しかし私は今回、5把をまるごと手の中に出してしまった。

 これはつまり、テープを一人でははげなくなってしまうことを意味する。

 「あ、ちょ、ちょっとヘルプ!ヘルプミー!はよ!そうめんが落ちる!」

 慌てて後輩に助けを求める私、とても情けない。アイドルが慌てて、私の手の中で踊るそうめんたちからテープをはがしてくれた。二人の初めての共同作業が、こんな形になるとは。

 なにはともあれ、そうめんは無事にテープの呪縛から解き放たれたので、煮えたぎる湯の中にそれをぶちこむ。手こずらせおって!

 せまいキッチンに四人の男がひしめいて、ネギをきったりじゃこ天を焼いたり、そうめんを茹でたりする。

 少し前までの私なら、「ああもう鬱陶しい!私一人でやるから!」と思っていただろう。基本的に個人プレーが好きで、自分のペースを守りたい人間なのだ。

 しかし今は、みんなでごちゃごちゃしながら何かをするのも楽しいなと、感じることができるようになった。確かにペースは乱れるし、失敗することもあるし、一人なら起きない事件も起きるけれど、それもひっくるめて笑えるようになった。

 むしろ色んな人と居た方が、色んなハプニングが起きて面白い。

 ずいぶんと成長したものである。

 そんなこんなで、無事にそうめんはゆで上がりました。

 けっきょく具材は、じゃこ天、錦糸卵、きゅうり、ちくわ、ネギという組み合わせに。実に豪華である。

 缶チューハイや缶ビールのプルタブを開けるとともに、かわいい後輩たちと乾杯をしたのでした。

 食事のあとはゲームをしたりお喋りをしたのだが、ここまで書くのに思ったよりも紙幅を使ってしまったので、それは次回にまわすことにする。

 いや、今これを書いているのはパソコンだし、実際に皆様が読むことになるのもインターネット上なのだから、紙幅はおかしいか…?

うーん。こういう場合は、慣用句通りに紙幅という言葉を使っていいのだろうか。

 そもそも今どきの子には、紙幅って言っても伝わらないことが多くて悲しい。紙幅というのは原稿の枚数とか、紙の幅のことですよと言い添えておきます。

 ていうか実は、買い物からそうめんを食べ終わるまでにかかった時間は二時間くらいなのだ。そして後輩の家にいた時間は、十時間ほど。つまり、五分の一の時間を表すだけなのにここまでダラダラと書いてしまっている。ていうかこいつ、先輩のくせに後輩の家に滞在しすぎである。

 さっさと終わらせるつもりが、気が付けば長文を書いてしまっている。かわいい後輩への愛のあまり、書きたいことがわいてきて仕方ないのだ。

 ここは私の愛に免じて許していただき、生ぬるい笑顔で次回も読んでくださることを期待する。

 ちなみにここで言う愛とは、純然たる人間愛のことだ。決して下心などではござらぬ。

 もし下心があったとしても、ほんの少しだけである。