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男子お二人様をストーキング

すこしずつ気温が上がっていくなーと感じていたら、六月になってしまった。とはいえ夜はまだまだ涼しいので、たまに近所のコンビニまで、ふらりと散歩に出てみたりしている。

風呂上りにポッキーが食べたくなり、夜の散歩へ出かけた。雨が降ったこともあって、実に気持ちのいい夜だ。火照った体をひんやりとした風が触れていって、肌の表面から熱をとりさってくれる。

コンビニについて、手始めに漫画の棚を物色する。新刊もうすぐだなー、何が出るっけなーと考えながら本棚を漁る。

と、窓の外になにやらひょこひょこと動くものが。漫画の棚というのは大体窓側にあるので、外に誰かが居ると、やたらと目に入ってくる。外を見ると、エアバスケをしている男の姿が。年のころは二十歳ともう少しくらいだろうか。

しかもよく見たらイケメンである。髪の毛は短めの黒色で、背が高く、たくましい体つきをしている。コンビニの中からの白い光に照らされる肌は、きれいな褐色だ。タンクトップにジャージの半パンという恰好は、いかにも「ちょっと家から出てきました」という風情だ。もっとも、私も半袖半ズボンだったので、人のことは言えないが。というか「風呂上りにコンビニに来ました」感満載だっただろう。髪の毛もちょっと濡れてたし。

「ほえー、かっこいい人だな~」なんてなんとなく眺めていたら、目が合ってしまった。なぜかマジマジと見つめられる。なんだろう、風呂上りだし、髪の毛が寝癖で大変なことになっているというはずもないのだが…。

「や、やだちょっと待って、そんな風に見つめられたら照れるわ」と、ふとした瞬間に恋に落ちてしまった乙女を心の中で演じながら、そそくさとそこを去る。気まずいことこの上ない。

そのままなんとなくコンビニの中を一周して、お目当てのポッキー(ちなみに極細)を持ち、レジへと向かう。

お会計をしてもらっている最中に、もう一度彼の方を見ると、ちょうど店を出ようとしていた男の人に反応して、自動ドアの前で待ち構えていた。癖のあるフワフワの髪の毛で、縦にストライプのはいったシャツを来た男の子を出迎えるエアバスケ君は、尻尾がついていたら確実に振っているだろうなというような、いい笑顔である。

「なるほど、店内で買い物をしていた友達を待っていたというわけか」と納得し、ポッキーを受け取って店を出た。

さー帰るかと道路に出たら、さっきの二人は私と帰り道が同じだったらしく、自転車で私のことを追い越して行った。そう、何気ない日常の風景である。人は擦れ違い、追い抜き、追い越されながら日々を送っている。私は家路を急ぎ、居心地のいい自分の部屋についたら、ポッキーを食べながら漫画を読むのだ。

が、しかし。次の瞬間私の脳をとてつもない衝撃が襲う。

…て、てをつないでいる?いや、違う、あれは…窓の外にいた褐色男子が、癖ッ毛男子の肘あたりを掴んでいる…!?

思わず姿勢を低くし目を細め、獲物をつけ狙うストーカーのような陰湿な熱情を秘めた目つきになる私。隣を歩いていたカップルがぎょっとするが、そんなことに構ってはいられない。ええい、愚か者め。今起きている一大事が理解できぬのか!

なんだ、どういうことだ。落ち着け、状況を把握しろ。脳内にある作戦会議基地(ヱヴァンゲリヲンで戦闘の時に、ミサトさんやリツコさんがいつも居る場所をイメージしてもらおう)が、この状況に対応するために騒がしくなる。「パターンピンク!ホモです!」

これを見過ごしてはならないと、私の脳の中の最も本能に近い部分が金切り声をあげている。とほほ、私の本能は何よりもホモに反応するのか…。

とにかく、これを見逃す手はないと、音もたてずにすばやく走り出す私。幸いにして、その二人は自分たちの世界にどっぷりで、ゆっくりとしたペースで自転車を漕いでいる。肘でつながったまま。

私は忍者のような走り方でしばらく二人を追ったが、なんと二人は我が家のまえを通り過ぎて夜の街へしけこんでいった。さすがに家を通り過ぎてまで追跡することはできず、私は悔し涙を流しながら彼らを見送ったのだった。さながら、大切な人の死を理解できないまま、ただ葬られるのを見ることしかできない少女のように。

あ、イタイ、物を投げないで!ゴメンナサイ、ストーカー行為をなんかキレイな感じの比喩にしてゴメンナサイ!

うむむむむ。

しかしあの二人は、一体どういう関係だったのだろうか。コンビニの外でエアバスケをしながら待っている彼からは、「まだかなまだかな」と尻尾を振っているかのような風情も感じられたが…。

ははーん、分かったぞ!

きっと褐色エアバスケの彼(ややこしいので、リョウタ君としよう)は、店の中で買い物をしていた男の子(こっちはヒロシ君とする)に片想いをしているのだ。そして一度告白をして、「ごめん、リョウタ。俺は応えることができない。でも、今までのままでいいなら、このまま仲良しでいたい」と、親友以上恋人未満な関係を継続しているに違いない。

しかしそこは体育会系で自分の感情を隠したり、誤魔化したりするのが苦手なリョウタ。気持ちもバレてしまっていることだし、開き直ってヒロシへ猛アピールをする。

そんなアピールの一環として、土曜日の夜という、次の日になんの不安もない時を選んで、ヒロシの家へ泊まりに行ったのだ。

「なぁ、ヒロシ。オレ今日することないけん、泊まりにいってええ?」と、少しだけ甘えるような声でヒロシへ電話するリョウタ。

「えー、別にええけど…」と、そんな声にほだされて、ヒロシはリョウタを招き入れてしまう。

「じゃあ待ち合わせどこにする?」

「そうじゃなー、じゃあうちの近所のコンビニ。お菓子も欲しいし」

「おっけおっけー!やったー!ありがと!」とはしゃぐリョウタ。告白を断った相手が懐いてきて、ヒロシは微妙に気まずいものの、素直に喜ぶリョウタを憎からず思ってしまう。

リョウタは、「ちょっと買い物あるから」とコンビニの中へ行ってしまったヒロシを待つ。大好きなヒロシのところへお泊りできるのが嬉しくて、「早くあいつでてこねーかなー」なんてエアバスケをしながらはしゃいでしまう。

ひょこひょこ跳ねながらコンビニの中をのぞくと、いかにも風呂上りくさい半袖半ズボンにメガネのもっさりした男がこっちを眺めてきていたりして、なんだこいつと思わずしげしげと見返してしまったりもする。目が合うとそそくさと逃げられて微妙な気分になるも、会計を終わらせて出てきたヒロシを見つけた瞬間そんなのもどこかへ行ってしまう。

二人で並んで自転車を漕ぎながら、「自転車こぐのだり~」なんてヒロシの肘のあたりを掴んでみるリョウタ。「重いって」なんて言いつつも振り払おうとしないヒロシに、少しだけ胸の内が温かくなる。

酒もつまみもカバンにつめてきた。何を話そうかな、何も話せなくてもこいつと一緒に居れて、存在を感じられたらそれで幸せだけどな、なんて浮かれてしまう。

さぁ、今夜は二人きりだ。一度フラれたけど、そんなんじゃおさまり切らないこの気持ちを、どう伝えようか。

ああ、今夜も道ばたですれ違っただけの男子二人組をストーキングした挙句に、こんな妄想をしてしまった…。だけどあんな風なくっつき方されてたら、気になるに決まってるじゃない!

そう、これはもう仕方ないのだ。不可抗力である。

というか私は、そろそろ人の恋路を心配するよりも、自分の将来を心配した方がいい気がするのだ。ああ、だけど妄想まで奪われてしまったら、何も楽しみに生きていけばいいのだろう。

ていうかむしろ妄想しか楽しみのない私の人生とは一体…。

誰かの幸せを妄想しているのが幸せという自分が切ないので、そろそろ恋愛頑張ろうかと思います。

えっと、恋愛ってどうするんだっけ?選択肢はどこに出るの?え、現実だからでない?

んー……。

私はこれからも妄想で食っていきます!