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年上の彼 年下の君

非常に私的な見解ではあるが、男同士の関係には「おおっぴらにできない背徳感」と「それでも抑えきれない恋情」が欠かせないと考える。

本日はそんな秘密の関係に、心ときめかせた。

Gさんは私より一つ年上の、ゆるゆるふわりとした女性である。髪の毛をふんわりと巻き、風が吹けばひらひらと舞うような服をお召しになり、重力がないかのように歩くお方だ。

今日はそんなGさんと、猫カフェなるものへ突撃した。私は猫のような愛くるしい生き物に目がないので、「なんだこのやろう、日がな一日ゴロゴロとして、にゃあと鳴けばエサが貰える生活をしおって。悔しい。羨ましい。でも貢いじゃう」といった複雑な気持ちを抱いている。これも一つの愛だ。

さて、猫カフェへ向かう道すがら、Gさんには非常に興味深い話を伺った。

「ねぇねぇ、霞ちゃん」

「なんですか、Gさん」

「私の同期にね~、とっても仲良しな男の子が居るの」

思わず私は前のめりになって「ほほう、詳しく聞かせてください」と食いついた。

「えっとね~、A君とB君って男の子が居て、A君は私の一個下で、B君は二個上なのね?ちなみに背はA君の方が高くて、彼は体育会系で褐色男子なの。B君は背は高くないんだけど、色が白くて髪の毛がふわふわで料理上手な男の子よ」

「ふむふむ、完璧な組み合わせですね。素直で自分より大きな年下男子に懐かれて、悪い気がしないまま餌付けをしてしまう年上男子とは。そのまま作品にしたい二人組です」

「そうそう。それでその二人がね、とっても仲良しなの。どれくらい仲良しかって言うと、同期はその二人と私の三人しか居ないのに、私が疎外感を感じちゃうくらい仲良しなの」

「それは疑わしいくらいの仲良しですねぇ!」

ここまで、私はすでにGさんの話に夢中である。女そっちのけで男同士の関係を深めるとは、なんとも意味深な二人ではないか。

「それでね、この間仕事の後に、飲み会があったの。飲み会まで一時間くらい時間が空いたから、私たちはいったん帰って、着替えてから戻ってこようって話になったわ。私はまっすぐ帰って、服を着替えて、それから待ち合わせ場所まで向かったわけよ。そしたらその二人ったら、待ち合わせ場所にスーツのままで現れたの!」

私の頭の上に疑問符が並ぶ。「でも、着替えに帰ったんじゃないんですか?」

「それが、時間に余裕があるからって、B君の家にA君が行って、そのままうっかり二人で一時間過ごしたらしくて…」

色めき立つ私。年頃で、やけに仲のいい男子が二人、思わず一つ屋根の下で時を忘れてしまったときた。こんな思わぬときめきがあるから、私は今も枯れ果てずになんとか生きているのだ。いや、ある意味枯れてはいるが。

「なんですかそれは!着衣に乱れはなかったのですか!」と、私は叫んだ。

「なかったのよ~。いつも通りの仲睦ましげな様子で楽しげに話していて、私は蚊帳の外だったわ。ああ、あの二人の関係が気になる!」

激しく同意である。おおっぴらにできない場所で、二人で愛を深めているのではと勘繰らせる話だ。

男同士の恋愛というのは、社会通念上おおっぴらにできないものである。しかし禁じられているからこそ、人知れず燃え上がってしまうものではないだろうか。

例えるならそれは、現代の少年たちがネットの海からアダルトな画像を探すのに似ている。もしそういうものを見ることを許されていたならば、彼らはあそこまでそれに熱中しないであろう。少年らしい性衝動と、それを人に知られる気恥ずかしさ。しかしネットで、一人きりの部屋でなら、彼らはそれをぞんぶんに発露させることができる。

「人に知られてはいけない」という背徳感と、初めて知る未知の味。そういうものに夢中になってしまうというのは、男の遺伝子に組み込まれた性質なのではないかと推測される。

男同士の関係は、未知の味への興奮と背徳感を、彼らにたっぷりと味わわせてくれることであろう。知らずのうちにその罠へとはまったA君とB君は、職場でもプライベートでの互いを意識し、きっとこれからも素晴らしい話題を提供してくれることであろう。

ひとしきりA君とB君の話題で盛り上がった後、私たちはいよいよ猫カフェへと足を踏み入れた。そこは楽園であり、人と猫とが融和する世界。私たちは人としての尊厳を忘れ、猫にときめき、猫にひれ伏し、奉仕をしたのであった。

うむむ、あらためて考えれば、人と猫とが融和するというより、自分より小さく可愛らしい存在に奉公する喜びを感じる時間であった。おまけに彼らは、奉公されることさえ時には拒むのだ。猫族に夢中になってしまう人間は、倒錯的な喜びを感じる特殊な人種に違いない。しかしそんなことを言うと、私までそのような奇特な人間に含まれてしまうので、この考えは胸にしまっておくことにしよう。

私は財布を軽くしてまで動物に奉公しながら、B君への奉公に見合ったご褒美をA君が貰うシーンを妄想して、一人ほくそえんだのであった。