読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

少年の 視線が伝える 片想い

あぁ、私とこの人たちは違う人種なのね…。

お金に関するお仕事をなさっている方々のお話を聞きながら、一人ごちる。

彼らが熱くお金の管理や会計などについて語る間、ひしひしと感じる違和感。ボケッとしたいかにも間抜けそうな私に注がれる、なんでお前ここに居るんだ的な視線。もしも視線に温度があるなら、それは確実に私を凍てつかせたことであろう。

分かってる!私が一番分かってるの!

そんな悲鳴を心の中で上げながら、すごすごと退散した次第であります。

逃げ出した帰り道の商店街の中で、少しばかり古本屋に立ち寄る。「げっへっへ、金の話で荒んだ私の心を癒してくれる、良質な男の子の出る本はないかしら」と舌舐めずりしながら徘徊する私(不審者)。

ここでも店員に凍てつかんばかりの視線を注がれたが、その程度でへこたれる私ではない。本に対する熱い気持ちが、そんな視線をへいちゃらにしてくれるのさ。一時間ほど物色し、何も買わずに帰るのもよくないかと、とある本を持ってレジへ向かう。

目の前に立つはいかにも体育会系といった感じの、体育教師を目指す(店員と睦ましげに話しているのを立ち聞きした。盗み聞きでは断じてない)いかついあんちゃんである。

さぁ買い物だとルンルンで鞄を開け、その直後、とっさに店員の手から本をひったくる!「ど、どうしましたか…?」と険しい表情の体育男子(背が高めだ。殴られたらどうしよう)。

消え入りそうな声で私はこう言った。

「さ、財布忘れました…」

自分の財布の管理もできないやつに、金の管理だの会計だのは無理なのだ。私があの場をすごすごと退散したのは正解だと、改めて噛みしめたのだった。

しかしその程度の事件で心が折れる私ではない。ちんたら家まで自転車をこぎ、財布をとって再び古本屋へ向かう。そして目の前をフラフラ走る学校帰りの制服高校生カップルに、進路を妨害される。おのれ、我々が生きる上で、財布を忘れる事件(サザエさんだって財布を忘れるのだ、そりゃあ私だって忘れる)とラブバカップルに道を邪魔されることは避けて通れぬのか。

指パッチンで人間を消す超能力が私に備わっていなかったことを、幸運に思うんだな!そんなことを考えつつ、これ以上奴らに邪魔をされてなるものかと、道路の対岸へ渡る。

そして目の前に現れたのは、信号待ちをする一人の少年である。

少し長めの髪の毛に半分隠された横顔と、尖らせた唇が、なんだかエロティックである。微かに褐色の肌は運動系の部活に所属していることを伺わせるが、身長はまだまだ伸びしろがありそうだ。幼さの中に、大人になりつつある微妙な精悍さをにじませる、少年の魅力とはこれであると思わずため息をつきたくなるような理想像であった。

これは素晴らしい出会いを得たりと後ろをついて行く私。ストーカーではない、古本屋までの道が一緒だっただけだ。少し遠回りして古本屋に向かっているだけだ。

後ろから様子を見ていると、少年はチラチラと横を気にしている。「あら、なびく髪に横顔が素敵だわ」なぞと考えながら視線を追うと、そこには先程のラブバカップルが!

よく見れば、少年とラブバカップルの制服は同じである。ははーん、わかったぞ。

きっと少年は高校一年生の頃、あのラブバカップルの男とクラスメイトであったのだ。一年間、休み時間には互いに笑顔を見せ、図書館で頭を抱えながら向かい合って課題に取り組んだのだ。一緒に部活をし、ジャージ姿に汗で濡れた髪の毛で笑う彼に胸をときめかしたに違いない。そして一緒の帰り道では、ふと途切れた会話に、気まずいような、無言の時間を共有できて嬉しいような、むず痒い気持ちを味わったに違いないのだ。

しかし二年生になって、彼とはクラスが離れ離れに。一緒に帰ることが減り、気が付いたら彼には彼女ができてしまった。一年間一緒に過ごし、独占していたはずの帰り道の友人の笑顔を、ぽっと出の女にかすめ取られたのだ。

そして少年は、その時初めて自分の気持ちに気付く。

「なんだ、俺はあいつの笑顔が嬉しくて、一緒にいると楽しくて、恋に落ちていたのか…」

しかし彼にはすでに彼女が。それは道ならぬ恋。今日も帰り道で一緒に自転車を漕ぐこともできず、せめて道路の対岸から彼がにっくき生娘とむつましげに帰るのを眺める少年。なんと純粋で切ない恋心であろう。

勝手に一人で盛り上がり、「おのれ小娘め、少年に彼を返せ!お前に恋愛は百年早いわ!」と心の中で罵倒することひとしきり。本来の用件を思い出し、私は古本屋に向かったのであった…。

ちなみに、古本屋店員の彼は私のことを覚えてくれていて、「あ、また来てくれましたね」とにこやかに本を包んでくれました。思わず恋に落ちんばかりの笑顔でござった。

ふふふ、財布を忘れたおちゃめさで、私の印象も鯉のぼり…もとい、うなぎのぼりであろう。