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前日譚「自分の気持ちで」

大学が終わって、一人電車に揺られて帰る。明かりの灯り始めた町が、窓の向こうを通り過ぎていく。一人で帰る暗いひんやりした部屋のことを考えながら、なんだかなあと思わずにはいられない。 大学の勉強は面白いし、友だちもたくさんいる。彼女は今はいない…

昼休みの音楽会

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二人きりになると、「なんか弾いて」とおねだりする。そうすると成太はだいたい楽しくて盛り上がるような曲を弾いてくれるんだけど、それはあんまり好きじゃない。だから一度止めて「お前が弾きたいのを弾いて」と言うと、成太はようやくその時弾きたいもの…

ずっと笑って3

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ずっと笑って ずっと笑って2 三日間こんこんと眠り続けた。大学に行って誰かと顔を合わすのも嫌で、狭い部屋の中で現実から逃げるようにひたすら布団の上でうずくまっていた。 しかしそんな生活にも限界がきた。どんなに落ち込んでいても喉は乾くし、腹は減…

ずっと笑って2

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涼しい風が吹き始め、かすかに街路樹が色づき始めた道を、おれは足取り軽く歩いていた。本の入った袋の重みが嬉しくて、足元がふわふわと落ち着かないのだ。先月多めにバイトのシフトをいれた甲斐あって、お金に余裕ができたので、以前から欲しかった本を買…

ずっと笑って

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心を落ち着けて、狙いを澄ます。体をぐっと安定させてギリギリまで張りつめたところで、ふっと力を抜いて的を射る。ズドンという鈍い音がして的に矢が突き刺さる。後ろに下がって次の自分の順番まで前の人が射るのを見る。 「あ…浩太…」 周囲で構えている男…

山道のメロディ

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どうしよう、あなたに出逢うまでの私忘れちゃったわ―― いきなり鳴り響いたYUKIの声に、びっくりして目を覚ます。確かこの曲は、少し前にはやったアニメの主題歌だった。歌い出しが好きで、お気に入りの曲だった。 「…もしもし」 「あ、康太?俺だけど」 俺が…